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暗黒労働おとぎ話 『ハーメルンの 特に笛は吹かない男』

株式会社ハーメルンは、地方都市の中小企業です。

株式会社ハーメルンでは、日々、大量の書類が発生しておりました。


ただでさえ狭い事務所には、キングファイルと紙の資料があふれかえっておりました。


パソコンの中も、大量のネ申エクセル(※1)が、あっちのフォルダ、こっちのフォルダ、あっちのサーバー、こっちのサーバーと散乱していました。


※1 ネ申Excel(ねもうすエクセル)とは:
データの再利用を考えずに見栄えだけをそろえたExcelデータのことで「紙への出力しか考えていないExcel」という意味も含む。



株式会社ハーメルンの従業員は、気が狂いそうなほどの非効率的な状態に、日々頭を悩ませておりました。



そんなある日、株式会社ハーメルンに

「私なら、その悩みを解決することができます。」と

カジュアルジャケット × シンプルなTシャツにノーネクタイという、とても日本の営業男児に見えない男がやってきました。


株式会社ハーメルンの社長をはじめ、会社の人たちは、この奇妙な男のプレゼンに引き込まれました。
男はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ソフトで、ロボットを作成し、一瞬でエクセルの営業資料の作成を終えてしまいました。


毎月定例の
横にも縦にもバカみたいに沢山のセルを使った、
長ったらしい入れ子の関数があちこちに埋め込まれた、
ちょっと手がぶつかった途端、関数が消えてしまうという爆弾をかかえた、悪夢のようなエクセルの営業資料が、ボタン一つで先月分、当月分と仕上がったので、社長も従業員もとても驚きましたが、このカジュアルファッションの営業マンが提案するRPAソフトの初期導入プランが150万円だと知ると、社長はいろいろと文句をつけて、男を追い出してしまいました。



しかしクリックひとつで、あの忌まわしきエクセルファイルの定例作業が終わった奇跡を見てしまった若手の営業社員たちは、男の奇術にすっかりと魅了されてしまいました。



「あの便利なツールがあれば、今日も残業をせずに子供と一緒にご飯が食べられたのになあ・・・。」


「この紙の山も、分厚いキングファイルも邪魔くさいなあ・・・。解放されたいなあ・・・。」


「毎月数枚、行方不明になる伝票の悪夢からも解放されたいなあ・・・。業務をデジタル化したいよなあ・・・。」




6月26日。


男が再び新商材のパンフレット一式を持って、株式会社ハーメルンに営業にやってきました。

長居はしませんでしたが、男の所属するRPAサービスの会社が、事業拡大のため営業マンを募集しているそうだとか、男の会社は「1日6時間労働」をはじめ、生産性やワークライフバランスの向上を目指した人事施策を導入しているんだそうだという話が噂になって広まると、株式会社ハーメルンの若手の営業マンたちは、ほどなくして、一斉に退職代行サービスを使って、忽然と会社から消えてしまいました。




営業部の若手社員達は、それっきり帰ってきませんでしたとさ。



おしまい


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・ 名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


私はこの本を読んだ。とても興味深い内容だったけど、最新版は安っぽい帯がついてて驚き!

ハーメルンと検索すると、バイオリン弾きが出てくる理由

この作品も好きだったなあ。

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