クリスマス作戦!
どこの国だったかなぁ。
とにかく寒くて、ありとあらゆる植物が雪で彩られている真っ白な国だった。
その国のずーっと山の奥の奥の、そまた奥に、あの人は住んでいるんだよ。
え?誰って…?あの人だよ。あの人。
サンタクロースだよ。
*…*…*
僕のおじいちゃんは若い頃に小さなお店をやっていて、そこで手作りのおもちゃを売っていたらしい。
“らしい”というのは、僕の知っているおじいちゃんは、もう既に『おじいちゃん』だったから。
おじいちゃんは僕が物心つく頃には仕事を引退していて、お店もさっぱり跡形もなく片付けられていたし、暖かい陽のあたる窓際にある腰掛けへ深く座り、古いレコードを聴きながら、猫のタマとのんびり暮らしていたから。
僕が遊びに行くといつもおもちゃ屋さんだった頃の話をしてくれた。
その話がまるでおとぎ話の様に楽しくて、僕はおじいちゃんの話を聞くのが大好きだったんだ。
僕が高校生になった頃、おじいちゃんは更に『おじいちゃん』になっていた。
暖かくて優しい陽の入る部屋へ置かれたベッドで寝ている事が多くなっていたけれど、遊びに行くとやっぱり楽しい話をたくさんしてくれた。
その年のクリスマス、僕たちが暮らす街では珍しくたくさんの雪が降ったんだ。
ゆっくりと降り積もるその雪を眺めながら、おじいちゃんが僕にそっとこう言った。
「実はじいちゃん…サンタクロースに、会った事があるんだよ。」
って。
「えぇ…?じいちゃん、サンタさんに会ったことがあるの?」
あまりにも突然の告白に驚きながらそう聞くと、おじいちゃんは小さな少年のような、少しイタズラっぽい、しわしわの笑みを浮かべながらゆっくりと話し始めた。
「どこの国だったかなぁ。」
「とにかく寒くて、ありとあらゆる植物が雪で彩られている真っ白な国だった………。」
*…*…*
けたたましく蝉が鳴いていた、ある夏の日。外国から手紙が届いたんだ。
内容はこうだ。
『厳密な審査の結果、御社の製品がクリスマスに世界中の子供たちへ贈るおもちゃの1つに決定致しました。』
じいちゃんはおもちゃの店を始めてから毎年『クリスマス玩具選定委員会』へ作ったおもちゃたちを応募し続けていたんだ。
なんの委員会かって…?
サンタクロースがその年のクリスマスに子供たちへ贈るおもちゃを選定する委員会さ。もちろん委員長はサンタクロースだ。
…おまえ、信じていないなその顔は。ほら、そこの棚にクルミ割り人形があるだろう?
そうそう、それだそれ。それがその時に内定したおもちゃだよ。
…ほら、背中にサンタのマークがついてるだろう?
あの時は本当に嬉しかった。早速準備して、手紙と一緒に入っていた渡航券を握りしめて家を飛び出したんだ。
どこに行ったかって…?
サンタの暮らす、真っ白な国さ。
委員会で内定したおもちゃ会社の担当者は、サンタの元へ集まる決まりがあるんだ。 世界中から集まるんだぞ。
…クリスマス作戦会議ってやつだな。
あの年の会議は本当に白熱してなぁ………
*…*…*
あの冬、おじいちゃんは瞳を輝かせながらそんな夢のような楽しい話を僕に夜通し聞かしてくれた。
大学を卒業した僕は、小さなおもちゃ会社へ入社した。
おじいちゃんの様に子ども達へ『ワクワク』を届ける仕事がしたかったんだ。
どうして僕が今、この話をここに書き残そうとしているのかというと…実は、入社3年目の今年、初めて大きなプロジェクトを任されたんだ!
嬉しくて、貰った通知を握りしめて仏壇の中で笑ってるおじいちゃんへ真っ先に報告しに行ったよ。
それにしてもさ、成功させるために今日まで走ってきたけれど、走れば走るほど、おじいちゃんの凄さに気がついたんだ。
そしたら、本当は内緒にしなくちゃいけなかったんだけど、どうしても書き残したくなって書いちゃった。
今日は内定者達が顔を合わせる最後の打ち合わせなんだ。
なんの内定者かって…?
………あまり詳しくここでは書けないんだけど…『クリスマス作戦』って、感じかな。
いろいろな事情で渡航ができなかったから、今年は全ての会議が史上初のリモートだったんだ。
トナカイが乱入した時はみんなで笑っちゃったよ。
サンタさんはちょっと焦っていかたかな。
おっと!
ちょっと書きすぎちゃった……。
…サンタクロースって、君は信じてる?
僕はもちろん、信じてる!
クリスマスまで、みんなで頑張って準備してるから
あともう少しだけ、待っていてね。
★🎄★🎄★🎄☆ミ
これは
こんな世界があったらいいのになっていう
そんな夢のお話し。
( おしまい )
★🎄★🎄★🎄☆ミ
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