悪意の値段/1円の報酬と衆愚の投票
殺し屋稼業は儲からなくなった。
理由は単純。
単価が下がったんだ。
昔ながらのやり方が通じなくなった。
ずっと昔、依頼主の大半は”国”だった。
御国様が自らの手を汚したくない、もしくはバレた時のことを考えて、俺たちに頼んできた。
もちろん報酬はたんまりだ。
あちらさんも自分のカネじゃないんだ。金払いは良かった。
その次の時代、依頼主は企業になった。
国が荒っぽいことをしなくなった代わりに企業同士の争いが盛んになった。
その中で荒っぽいことで物事を押し通そうと思う輩も出てくるのは当然だろう?
そういった依頼も額はデカかった。
大企業なら相応の報酬は当然払ってもらえる。
が、不景気になってSNSが盛んになるとそういった企業からの依頼も激減した。
金払いも悪くなり、なにかヤマしいことを疑われると総叩きにあう世の中になっちまった。
昔はメディアにカネを払えばたいていのことを黙らせることができたが、何百何千という好奇の目を潰すのは難しい。
で、そうなると客質が悪くなる。
悪くなれば金払いも悪くなる。
さらに競争相手まで安っぽいのが現れた。
カタギ崩れの輩だ。
プライドもなにもない後先考えない馬鹿どもが、二束三文で”殺し”を請け負うってんだ。
しかも依頼人も一般人さ。
男女のいざこざや逆恨み。額は個人が出せるはした金。
商売に上がったりさ。
え? じゃあいまはどうやって生計を立てているのかって?
もちろん、殺しさ。
ああ、説明したとおり、昔ながらのやり方は通じなくなった。
待っていても碌な依頼は来ない。
だからこっちから売り込むのさ。
いやいや、無理強いなんてしないさ。
「だれか殺したい人いますか?」なんていっても「はい」なんて答えるやつはいないよ。
だからこれさ。
殺人依頼を募るサイト。
一見ただのニュース記事に”投票”ができるサイトに見えるだろう?
しかし、このサイトの投票は”有料”なのさ。
これは殺人要望の投票を募るサイトなのさ。
国や大企業みたいな太客はいなくなった。
しかし、だったら――だからこそ、広く浅く、貰えばいい。
誰でも殺して欲しい人はいる。
いや殺したいなんても思わなくても、死んでほしいと思う人くらい…ちょっとイヤな目を合ってほしい人くらいはいるだろ?
1億は出せなくても、数百円はだせるだろう?
金持ちを夢見るやつが宝くじを買うようなものに近いかもな。
ほら、見てみな。
不用意な発言をした有名人の記事に対して、どんどん投票――課金されていく。
一人、数千円、数百円いや一円でも、その数が数百、数千、数万になれば・・・ーー人を殺す手間を賭けるのに十分な報酬だろう?
あんたの名前もこのサイトで検索してみるかい?
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