シミュレータが粗末な理由/人は殺せない、でもこれはゲームだから
「なんてショボいシミュレータなんだ」
俺は落胆した。
軍の情報システムにリスクを知りながら侵入し、そこにあった最新の戦闘シミュレーションの中身を知ることができた。
が、そのいわゆるFPSのようなゲームは、正直、現代のゲームクオリティにも劣る代物だった。
技術の発展で実写さながらのCGで再現されたゲームが山ほどある。
その中でも現実的な戦争などを舞台にしたゲームは、金のかけようも違う。
そして国や軍もこういった技術には資金を投じていた。
実際に戦争をするわけにはいかず、実地の訓練でも場所や諸々の費用がかかる。
が、シミュレーションならば一度作れば何度でも訓練を行える。
最近は見た目だけではなく、五感までも繋いで仮想現実で訓練するというのはアスリートでも用いられる方法だ。
だから俺は軍が威信をかけてつくったシミュレーションーーゲームがどんだけすごいものか、と期待していた。
それが現行機どころか前世代、いやレトロゲームといえるような粗末な3D表現のシミュレーションだったのだ。
「くそ! こんなガラクタ、なにも面白くない」
そう、いまも誰かが行っているシミュレーションを覗き見ながら、俺は悪態をついた。
画面では造形を荒いポリゴンで再現した人間を、だれかが撃ち抜いた。
ポリゴンが倒れ込む。
画像や造形のクオリティが低すぎて全くリアリティがない。
「どこかの誰かが予算を中抜して、こんなポンコツを国が掴まされていたってわけか・・・・」
やれやれ、と落胆しながらも、これはこれで国の不祥事として世間を騒がせるくらいはできるかもな、と気持ちを持ち直した。
その時、ふと違和感を感じた。
先程撃たれたポリゴン人形はたおれたままビクビクと痙攣し、そして、止まった。
それを確認するとそのゲームの操作者は、続いての目標を撃った。
グラフィックの不出来さと相反する生々しい反応が、背筋を凍らせた。
もしかして、これはシミュレータではないのかもしれない。
これは現実の、いま起こっているリアルタイムの映像。
その映像に、できの悪い荒々しいフィルターをかけているのではないか。
人を殺すには躊躇いが生まれる。
けれどもゲームならただの遊びだ。
ゲームのような見た目なら、罪悪感も何も無い。
これはシミュレータじゃない。
現実の戦場を、遊びにする装置なのだ。