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『82年生まれキム・ジヨン』

●本書について

 2018年12月8日発売後、各所で反響を呼び韓国では136万部日本では29万部、韓国で映画化もされた。単行本が発売された当時書店で大きく取り上げられており、SNSでも度々見かけていたのだが本書をあらわす語として「フェミニズム」が挙げられており当時はあまり関心を持てなかったので手に取ることがなかった。しかしそれからわたしの状況や考え方も変化し、今回単行本を見つけたことでこの機会に読んでみようと思った。

●あらすじ


 キム・ジヨン氏(33歳)は3年前に年上のチョン・デヒョン氏と結婚し娘を授かった。ある日突然キム・ジヨン氏に不可解な行動が目立つようになり夫に連れられて精神科を受診することになった。本書はキム・ジヨン氏というひとりのごく平凡な女性からみた世間からの女性の位置づけ、家庭での役割やその周囲の認識などを浮き彫りにし、女性とは母親とはなにかを問うている。


  女性の性差別や世間の評価、性被害において時代背景や文化の違いはあれど、日本も韓国も同じ悩みを抱えている事実に落胆した。すべての男性が女性を卑下するような人とは思っていないが、「女性が活躍するなんて」という思考で育った世代はそう簡単に考えが翻ることは難しいだろう。


 本文に「味噌女」という言葉が出てくる。注釈によれば
「家族や恋人に経済的に依存して、ブランド物を買ったり、高いスターバックスのコーヒーを飲んだりする見栄っ張りの女を貶めて言う二◯◯五年ごろの流行語。」(p125)とある。
この語を知りまっさきに日本で度々粗雑に命名される「◯◯女子」が浮かんだ。はじめこそ流行し女性(比較的若い層)が積極的に使用していた頃は前向きなイメージがあったように感じるが、最近では当事者である女性はすでに辟易しているのではないか。「ひとまず『女子』とつければいいだろう」という浅はかさが滲んで見えるのだ。
女性には不人気とされる分野で話題性を押し出したい際、扱いやすいようカテゴライズするための「カープ女子」「森ガール」「ソロ活女子」、似たタイプの語として「歴女」「リケジョ」などの言葉が生まれている。新規顧客獲得のためマーケティングをおこなった結果とは思うが、そもそもその分野において女性が積極的に好まないものであると、誰が決めたのだろうか。少数派であることを証明する調査でも行ったのか。

「◯◯女子」は「味噌女」のように「貶めている」ほどの強い意味合いはないと思っていたが、今回改めて考えてみると、誰かの「女性はこうだ」という偏見がいつの間にか共通認識にされており、そこから生まれた語であるので、つまり誰かの都合のよい言葉であるということだ。簡単でイメージが固定化してしまうカテゴライズする言葉に、個性はあるようでない。命名すれば飛びついてもらえるだろうと(わたしには映る)いう魂胆は軽んじていると言ってもいいのではないか。
 忘れてはいけないのは、ここまで述べてきたことをすべて「男性」に置き換えることもできるし、そのほかの性に置き換えることももちろん可能だということだ。現在は多様性の世の中である。これまで声を大にして存在できなかった人々がそれぞれ主張することはまったくおかしいことではなくなった。世界は大きく動いており「まだ理解してもらえないだろう」と萎縮する必要はないのだ。その際に他人も自分と同じように主張したいのだということを念頭に置き、共存していかなくてはならない。

                            (1484文字)

『82年生まれキム・ジヨン』
チョ・ナムジュ 著  斎藤 真理子 訳  ちくま文庫(2023/02/09刊行)


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