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[短編] 雪

「東日本は、午後から雪に見舞われるでしょう、、。」

テレビからは、天気予報を読み上げる淡々とした声が聞こえる。
それを、ぴくりと耳で拾いつつ、あたしは再びまどろみの中に沈む。


こんな寒い日は、あったかい毛布の中にいるに限るんだよねえ。

今日は雪かあ。
雪、ゆき、ユキ。
あたしは、ゆき。
多分冬生まれだから、ゆき。
ちょっと安直すぎると思わない?

「ゆき、どこ?」
ああ、暖炉でゆっくりと燃える火のような穏やかで優しい声があたしを探している。
あたしは、ここよ。いつもの定位置だもの。
あなたなら、分かるでしょう?

「みーつけた。」
毛布をめくられ、冷たい空気が入りこむと同時にあたしは、ふわっと抱きすくめられる。
背中をなぞる、大きな温かい手。
ああ、その手を離さないで。まだあなたの体温を感じていたいの。

「ゆきは、甘えたさんだなあ。好きだよ。」

あたしだって、そう思ってるよ。
あたしたちが出会った、あの日からずっと。



一年前のあの日。
あたしは、暗闇の中で凍えていた。
時間が経つにつれ、濃度が増していく暗闇は、全ての輪郭を曖昧にし、飲み込んでゆく。

どうして、あたしはここにいるの?
あたしの存在ってなに?
身体が冷えるにつれ、心もしんと冷えていく。

唸る風が、あたしが踏みしめていた場所を揺らす。風が少しずつ、あたしを千切ってさらっていく。
千切れて、千切れて、全部なくなっちゃえ。
もうどうでもいいの。
そうか、消えるってこういうことね。

「大丈夫?」


何もかも、諦めかけたところで聞こえてきた声。
それは、まるで暗闇に差す一筋の灯りで。
透明になりかけたあたしは、疲れと安堵の狭間で、静かにないた。


「あ、ほら、降ってる!」
僅かに高揚した声とともに、細く冷気が入り込む。
そして、ほんの少し開けた窓から、ひらりとその一欠片が部屋に舞い込んだ。

冷たいそれは、しゅるり、とあたしの背中を伝い、溶けていく。

温かい場所で見上げる雪は、悪くはないわ。
あたしには、もうちゃんと居場所があるのよ。

いつも、ありがと。
あたしも大好き。
触れ合った温もりで、ほら伝わっているでしょう?

ーにゃあん。
あたしは、そうっとあなたに身体をすり寄せる。

窓の外では、今年最初の雪が全ての音を飲み込みながら、世界を白く染めていく。


あなたが名付けてくれたから、
もう、雪の思い出も塗り替えられたの。


ーあたしは、ゆき。    (964字)


〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

ピリカグランプリに応募するにあたり、
初めて、短編(ショートショート)を書きました。
応募するか直前まで悩んでの、期限ギリギリのすべり込みセーフ!笑
わたしが書くのはいつもエッセイなので、どう書けば良いか戸惑ったけど、出来はともかく、新たな挑戦は、面白かったなあ。

ピリカさん、素敵な企画をありがとうございます♡


#短編 #ショートショート
#創作 #冬ピリカ応募 #冬ピリカグランプリ

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