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異世界転移流離譚パラダイムシフター

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数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
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2020年12月の記事一覧

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (16/16)【惜別】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (16/16)【惜別】

【目次】

【聖別】←

「もう出発するのかい? 寂しくなるなあ……あと数日くらいは、ゆっくりしていってもいいんじゃないか」

「お気持ちはありがたいのですが、そんなことをしていては、名残惜しさで腰が重くなってしまいます。わたくしたちには、行かなければならない場所があるのですわ」

 ディアナ、メロ、ミナズキは、最初にこの次元世界<パラダイム>へ降り立った森のなか、虚無空間へ通じる虚穴のあいた大樹

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (15/16)【聖別】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (15/16)【聖別】

【目次】

【手玉】←

「ほら、次の材木!」

「ヴルヒッ!」

 足場のうえから槌を持ったエルフが、眼下に向かって声をかける。待ち受けていたオークが、肩にかついでいた建材を軽々と差し出す。

 蓮の花開く『聖地』の沼沢に浮かぶような形で建設されている祭殿は、すでに完成間近の状態だった。

 森のなかからはオークたちが、切り出した材木を背負って運んでくる。エルフたちは、様々な工具を手にして木材を

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (14/16)【手玉】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (14/16)【手玉】

【目次】

【足掻】←

『ゴババアァァーッ!!』

 龍態のカルタヴィアーナの口から噴出する激流が、迫り来る粘体の大波へぶつかり、勢いを殺ぎ、その場に押しとどめる。

 暗緑の上位龍<エルダードラゴン>は、なおも胃袋にためこんだ水を吐き続ける。ついには『落涙』がわずかに地面から浮き、大質量は押し返されはじめる。

『なるほど、水流……これなら触れることなく、与える苦痛も最小限で、押し返すことが可

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (13/16)【足掻】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (13/16)【足掻】

【目次】

【増蝕】←

『メロ! しっかりつかまっていてくださいな!!』

 六枚翼の白銀の龍が、高度をあげる。山々の狭間からあふれ出した粘体は、もはや流れや溜まりといった程度ではなく、大潮を思わせる威容と化している。

 龍態のクラウディアーナと、その背にしがみつく魔法少女は、一定の高度を保ちながら、地表の様子を俯瞰する。

 勢いを増して広がっていく『落涙』から、守るべき『聖地』まではなだら

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (12/16)【増蝕】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (12/16)【増蝕】

【目次】

【決壊】←

「戻れッ! 『希望転輪<ループ・ザ・フープ>』!!」

 メロは両手をかざし、窪地の側面に張りついていたふたつのリングを遠隔操作する。手元に戻るまえに空中で激しく回転させ、遠心力で粘体の残滓を吹き飛ばす。

「うええ……染みとか、臭いとか、残らないといいんだけど……」

 手持ち武器として取り扱えるサイズまで縮小させた輪をキャッチしつつ、魔法少女は露骨に顔をしかめる。

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (11/16)【決壊】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (11/16)【決壊】

【目次】

【遡上】←

「さすが、ディアナさま! ついでと言ってはなんだけど……メロのこと、あの穴の近くに降ろしてもらってもいいのね?」

『おまかせなさい。非常時ゆえ、一切の遠慮は不要ですわ』

 大質量の粘体で満たされ、地獄の坩堝と化した窪地のすぐわきを、白銀の上位龍<エルダードラゴン>がかすめるように滑空する。

「ありがとうなのね、ディアナさま……ッ!!」

 魔法少女は龍皇女の背から飛

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (10/16)【遡上】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (10/16)【遡上】

【目次】

【海嘯】←

「ディアナさまー! どうだったのね!?」

 六枚の龍翼を羽ばたかせてクラウディアーナが『聖地』へと着地すると、魔法少女装束に身を包み、両手にそれぞれリングを握った臨戦態勢のメロが駆け寄ってくる。

『メロ。こちらのほうは、いかがでしたか?』

 龍皇女は少女の質問には答えず、問いかえす。光そのもののようなたてがみを揺らしながら、首をめぐらせて『聖地』の様子を見まわす。

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (9/16)【海嘯】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (9/16)【海嘯】

【目次】

【結論】←

『なんということ……』

 龍態のクラウディアーナは、呆然とつぶやく。月が目を見開き、朱に染まった異様な空の下、六枚翼を持った白銀のドラゴンの姿で宙を舞っている。

『……クラウディアーナ。その尾は、どうしたのじゃ?』

 同じく龍態のカルタヴィアーナが、姉龍の尾が根本から斬り落とされた痛々しい断面を鼻で指し示しながら、尋ねる。こちらは、暗緑色の翡翠のような鱗を持った四枚

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (8/16)【結論】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (8/16)【結論】

【目次】

【天敵】←

「森羅万象、天地万物、諸事万端──」

 ミナズキはただ一人、呪言を唱えながら霧深い森のなかを歩いていた。裸足でごつごつと根の入り組んだ地面を、霊脈に従ってひたすら進んでいく。

 祭殿建築の仔細は、龍皇女に伝えてある。オークたちの世話は、メロが引き受けてくれた。あとは、ミナズキが『反閇法』による聖別を完遂するだけだ。

 華奢だが手先の器用なエルフと、粗野だが膂力に優れ

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (7/16)【天敵】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (7/16)【天敵】

【目次】

【方法】←

「なにごとじゃ!?」

 天幕のなかで話しあいにいそしんでいたとばかり思っていたエルフたちが、天幕のなかから剣呑な雰囲気で飛び出してきて、カルタヴィアーナは眼前の姉龍のことも忘れてあっけにとられる。

「オークどもを見つけた方角は!?」

「東だ! そろそろ到着する頃合いだ!!」

「弓を持っている者は、いつでも射かけられるように構えておけ! まわりこまれる可能性もなくは

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (6/16)【方法】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (6/16)【方法】

【目次】

【案内】←

「まずは……周辺の地形を教えてもらってもよいかしら」

 ミナズキとエルフたちは、『聖地』のかたわらに張った天幕のなかにいた。狩人の一人が、黒髪のエルフ巫女の要請に応えて、敷物のうえに地図を開いてみせる。

「ここが、いまいる場所……『聖地』だ。こちらが、俺たちの村」

 エルフの族長が、指さしながら説明する。ミナズキは説明を聞きながら、地図に書きこまれた情報を凝視する。

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (5/16)【案内】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (5/16)【案内】

【目次】

【提案】←

「昨日の威勢はどうしたのじゃ、女童? 遅れておるわ!」

「あわわ、おっとっと……!」

 入り組んだ根のうえで腰に手をあてて見おろすカルタヴィアーナの視線の先で、メロが隆起したでこぼな地形につま先を引っかけて転倒する。

「だいじょうぶかしら、メロ?」

 先行していたミナズキは、足を止めて振りかえる。さらにまえを進むクラウディアーナやエルフの狩人たちも歩を止める。

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (4/16)【提案】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (4/16)【提案】

【目次】

【出生】←

「此方にもなにか、お手伝いできることはないかしら?」

「気持ちだけありがたく受け取っておくね。長旅で疲れているんでしょう? すぐに寝具を用意させるから」

 夕餉をすませたあとエルフの女たちに尋ねたミナズキは、やんわりと遠慮される。焚き火にあたりながら腰をおろしたままのメロが、その様子を見あげる。

「ミナズキさん、本当にまじめなのね」

「メロのほうこそ、少しくつろぎ

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【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (3/16)【出生】

【第2部9章】月より落ちる涙一粒 (3/16)【出生】

【目次】

【生還】←

「あんたには辛い話かもしれないが……隣村の連中は、正直、全滅したとばかり思っていたんだ。一人でも生き残りがいたのは、めでたいことだよ」

 若いエルフの男が、たき火に薪をくべながら言う。ミナズキの素性がわかったこともあり、一行は滞在を許され、村の集会場に案内された。

「いえ……此方は、まったく覚えていませんでしたから……」

「だろうなあ。あんたも、三十年まえなら赤ん坊

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