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キャリアを切り開きたいならまず徳を積もう〜手術への道もまず日々の徳から〜

バスケットボール選手になりたかったけれど、今は脳神経外科医になったということは、これまでのnoteで書きました。

 回り道でしたが、バスケから学んだことが今に活きていることはたくさんあります。その一つを今回は紹介したいと思います。

バスケでも初期研修でも同じことをたたき込まれた

「おい、何か話したら?」(移動中の車中で)
「肉の注文まだ?」(焼き肉屋で)
「なんで移動なのに洗濯物乾いてないわけ?」(遠征中に)

バスケットボールのためにチームに参加したのに、全然バスケットと関係ないことでも怒られてばかり。

私が米国の独立リーグABAやトレーニングキャンプに参加していたころの話です。

私は当時、周りに気を遣うということがまったくできませんでした。挨拶にはじまり、会話、ゴミ捨て、食事などいろいろな面で、自分のことしか考えられていませんでした。

そんな私に対して多くのコーチたちは、「ボールを持っていないときの過ごし方がバスケットに現れる」と、「ふだんから周りに気遣うこと」の大切さをたたきこんでくれました。つまり、ふだんの行いで人として認められないと、チームでプレイもできないし、上達もしないということです。

それは、医師になってからも同じでした。

やはり初期研修時の恩師から言われたのは
「徳を積め」
でした。

 勉強することも大切、診察や治療の経験を積むことも大切だが、それ以前に「いかに人の役に立ち続けられるか」で、つかめるチャンスも運も変わってくる。恩師はそう言いました。

 “徳”とは相手や周りの人が喜ぶこと

「徳」といってもいろいろな意味がありますが、ここでは“りっぱな行いや品性”(デジタル大辞泉より)といった意味です。

では、具体的にはどういうことかというと、例えばこんな感じです。

  • あいさつをすると0.5徳。

  • 落ちているごみをひろうと0.5徳。

  • ドアを先回りして開けると1徳。

  • 担当している入院中の患者さんに会いにいくと1徳。

  • 机の上をきれいにしておくと1徳。

  • 患者さんやスタッフへの声かけをすると1徳。

  • 仕事をてきぱきとかたづけてためないようにすることで1徳。

  • いつどこに呼ばれても対応できるように毎日スーツで出勤して4徳。

  • 休みの日も術後の傷と患者さんの顔を見にいくと10徳。

  ※「徳」の数は私個人のイメージです。

 徳を積むとは、相手や周りの人が喜ぶことを積み重ねるとも言えます。

もちろん何か悪いこと、ずるいことをしたり、態度が悪かったりしたら減点もあります。気に入らないことがあってキレるのも大幅減点です。

この徳をため続けると、脳神経外科医として手術を任せられるようになります。必要な徳はこれくらいです(徳の数は私個人のイメージです)。

  • 15万徳でバイパス術

  • 35万徳でクリッピング術

  • 50万徳で聴神経腫瘍の手術

 手術をさせてもらうには万単位での徳が必要だと考えています。 

なぜ手術ができるようになるのに何万徳も必要なのか

なぜ手術ができるようになるのにそれだけの徳がそれだけ必要なのか。

まず指導を受けるには、指導するに足る人間であることを周りの先輩、上司にわかってもらわないと始まりません。

さらに、診察も診断も治療も、さらには手術も医師一人でできるものではありません。指導医や同僚の医師はもちろん、検査技師や看護師などのスタッフと一緒に行うものです。その人たちと人間関係を築き、信頼関係がなければ、患者さんのため、自分が執刀する手術のために動いてもらうことはできません。

患者さんやそのご家族に対しても人間として信頼してもらえなければ、よい診療はできないでしょう。

大ピンチが徳の大量得点、そしてチャンスへ

 徳はピンチを乗り越えると大幅加点されます。

初期研修2年目の春のことでした。夜中、脳神経外科に入院中の患者さんが急変。しかし、病棟にいた医師は私一人でした。まだ経験も浅い医師が一人というのは大ピンチです。周りも不安しかなかったと思いますが、なんとかその場を医師一人の状況で対応することができました。

人の役に立てたから7,000徳くらい、などと当時思ったものです。

そしてその経験をきっかけに、後期研修1年目が終わったときに今もお世話になっているある脳神経外科の第一人者の先生を紹介いただき、指導を仰ぐことができるようになったのです。このことは、今につながる大きな転機でした。

ご紹介くださった先生もきっとふだんの私の行いから「紹介してもいい人間だ、あの日の対応もあるし」と思ってくださったのかもしれません。 

コロナ禍だし働き方改革だからこそ徳を積むべき

こうした経験から、私は人の役に立ち続けることが自分のチャンスにつながると確信しています。おかげさまで、医師になって8年で年間200件の手術を担当させてもらえるようになりました。

ただ、コロナ禍で人に会う機会も少なく、働き方改革で働く時間も以前よりは短くなっている今、「そんな時間ない」「そんな機会ない」と思う人も少なくないでしょう。

むしろそんなご時世だからこそ、周りに気遣いができ、役に立つことができる人、ひいては自分のためになることをつかめる人が重宝されます。自分のためになることだけを限られた時間でやっていては、自己中心的な人だと思われるだけです。

私自身、今、この瞬間も徳を積むことを考え、行動しています。そうすることがさらに多くの人の役に立ち、医師としての経験も積むことができる。そう信じています。

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