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男子大学生によるエッセイ No.1「あぁ~肩身」

エッセイ
へばりつく暮らし
No.1
「あぁ~肩身」



 花粉がつらい。地元でもかなり花粉がつらくて沢山の薬を処方してもらっていたので、埼玉に越してきてからもその薬を毎晩服用している。

 それにしても目も鼻も痒すぎる。毎朝鼻水が止まらないし、それに喉まで痒くなって噎せる様な咳が出る。一度耳鼻科で見てもらおうかな、とか思いながらテレビのニュースを見ていると、どうやらこの春、首都圏には大量の黄砂がやってくるらしい。きっと喉の痒みもその影響なんだろうなと腑に落ちて、マスクとかで防げばいいかなと思いながら英語の勉強をする。そのうちに自分の興味は手元の本に移り変わっている。


 部屋の中に一人でいると気が楽だ。まだ本格的に大学が始まっていないので散歩したりベースを弾いていたり映画を見たりしている。散歩をしていると地元との違いに直面して気が滅入りそうになるのでまだあまり外に出れない。そのままだと太ってしまうので自転車でぶらぶらすることはあるが、埼玉の人は他人に対しての興味が無さそうで、スーパーで見かける人々の冷たい目つきに怯えては、尻っぽを巻いて帰って来るばかりの日々だ。


 アマプラが好きだ。僕は通ってきたコンテンツが本当にバラエティ豊富だという自負があって、音楽、ドラマ、海外ドラマ、特撮、アニメ、漫画、小説、エッセイ、詩集、天文、絵、作曲、映像や音声の編集、シナリオの構成、そうした僕の出自の全てが煮凝りの様になったものが、アマプラやNETFLIXなどのサブスクで気軽に体験できるというのだから、いい時代に生まれたものだなあと思うばかりだ。

 洗濯物をたたんでいる間に何気なくドラマが見たいなと思って、今まで見たことのなかった「カルテット」というドラマを見始めた。僕は以前「Woman」「Mother」にドハマりしていた頃があって、その頃から坂元裕二さんの脚本作品には一定の信頼を置いているのだけれど、第一話の時点で「さすがは坂元裕二」とか思う生々しさが多くて、加えてカメラカットも演技もいいものだから、気が付くと洗濯物はたたみ途中のままで、もうすっかり「カルテット」にハマって見入ってしまって、一息ついてしまう。こりゃあ人気ドラマって言われるよ、と、もう放送から7年も経った番組に心の中で最上級の親指を立てる。


 今日もそうして一息ついていたところ、不意に左耳のあたりで甲高いプウンという音がした。だんだんと大きくなってくるその音の発生源が次第に近付いてくる。


 そう、"ヤツ"がいる。この狭く薄い壁の部屋の中に、にっくき蚊の野郎がいるのだ。

 いや~、本当に困るったらありゃしない。夏前に現れてから人々の神経と皮膚をめちゃくちゃに引っ掻き回すあのおじゃま虫、これが春先から、さも当然と言わんばかりに居るのか!?なあ、埼玉!?


 部屋の中を縦横無尽に飛び回る不快な音源。ちょっと油断すると耳のすぐそばに来ている。今しがた気が付いたが、背中に蚊に食われた跡がある。こうしているうちにもひとつ、また一つと跡が増えていくのだ。やめろ!俺の血を吸っていいのは黒髪ドラキュラ美少女だけだ!!!…ほら、思っても居ないようなことを書いてしまったじゃないか!この馬鹿野郎!


 しかも嫌なのが、彼奴め、壁にばかり留まってやがるのだ。真っ向から逃げれば人間に叩き殺されるのが目に見えているのか(そこまでの脳味噌はないだろうが)、卑怯にも壁一枚挟んだところに隣人がいるその壁に留まっている。


ぐぬぬぬ…今壁を叩けばこの悪しき虫けらをたちまち殺せるというのに、叩けば隣の住人に迷惑をかけることになる…。その葛藤の末、結局叩けずにまたプンプン飛び回るそれを目掛けて僕の両手が空を切る羽目になるのだ。視界の隅に飛んでいるヤツを見かけてもすぐに見失う。なんで蚊って目で追っているとすぐ見失っちゃうんだろう。ああ本当にムカつく!!!あまりにも手でパンパンと乾いた音を響かせているので、隣の部屋の人からお盛んだなとか思われているんじゃないかとかいう要らん心配をしてしまう。こいつマジでムカつく!!!


 プウン。また耳のすぐ近くで音。気が付くとお尻のあたりが痒く、そこに蚊に食われた跡を指先で認める。そして壁に彼奴の姿。次の瞬間には上の住人のドスドスという大きな足音。尿意を覚えトイレに駆け込むとその扉の角に肘をぶつける。さっき刺されたところが痒みより痛みが強くなってきて不安になる。換気扇の近くを通ると花粉でくしゃみが止まらなくなって、そしてまた耳元で…。


 ああ~。肩身が狭い!!!

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