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八月の雨を恋う

雨が降ると不思議と会いたくなる人がいる。
雨のような人だからだろうか。
湿った匂いとひんやりと冷たい空気を持ち合わせた人だった。
お互いが新しい日常に慣れていってからは、雨が降る日にしか会わなかったからかもしれない。
傘をさしていると絶妙な距離感を保てるから良かった。
話すことがなくなっても雨音に耳を傾けることができた。
窓に打ちつける雫のおかげで視線に困ることがなかった。
特別なことはないけれど、雨が降れば会えるから少しだけ雨の日が嬉しかったんだ。
いつも私の知らない新しい話を聞かせてくれた。
私の話には静かにうなづいて聞いてくれた。
だけど大人に見えて大人になりきれないもどかしさを抱えた人だった。
濡れた瞳は雨のせいにできた。
重なることもなく、ただ横にいるだけの人。
長い睫毛と口元の黒子が愛おしくてたまらなかった。
忘れたふりをして隠した気持ちを持ったまま、あと何回会えただろう。
これからが楽しみだねって言ってたけど、約束はしない人だから保証は何ひとつない。
もう2年、あと2年。
頑張れるよきっと。
雨のような人からの便りを待っている。

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