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国道沿いの秋桜

「誠実」


これは秋桜(コスモス)の花言葉である。
秋晴れの青空の下で心地よさそうに風に揺られている薄いピンクや濃いピンク、白やオレンジといった秋桜を見ると″秋が来たなぁ、今日はいい日だなぁ″と思うことが多いのではないだろうか。それは春の桜に心をときめかせるように、秋の桜であるこの花に、晴れやかな嬉しさや一抹の寂しさといった儚さを感じるからだと私は思う。

秋桜の古い思い出はまだ私が3歳の頃までに遡る。父親と2人で祖父母の家に通いづめになっていた秋だった。当時の私は車酔いがひどく毎日のように実家と祖父母の家を行ったり来たりするこの時間が苦痛で仕方なかったのを覚えている。本当はまだまだ赤ちゃんだった妹が可愛くて一瞬も離れたくなかったし、「どうしてお家に帰っちゃいけないの?」なんて聞いちゃいけない雰囲気を幼いながらに感じ取っていたあの頃は毎日、神経がピリピリと張り詰めていた。そんなときに国道沿いを永遠に咲き続けるピンクや白の花が見えたのだ。初めて目にしたとき、母親がプランターにも同じ花を植えていたのを思い出して、私はちょっと涙をこぼした。だけどすぐに父親にバレないように眠たいフリをして静かに窓の方に顔を背けたのだ。
国道を走る車の中から見る秋桜は殺風景で排気ガスばかりが俟っている中で控えめな華やかさを放っていた気がする。絵本で読むような素敵なお花畑ではなかったけれど、私にとっては国道に咲き連なる秋桜で十分心がふわりと救われたのだ。桜で心が揺さぶられるのと同じくらい、窓の向こうで並走する秋桜は私の心を揺さぶり震わせた。


大人になった私を3歳の頃の私が見たらどう見えるだろうか…。この花のようにまっすぐに誠実に生きているだろうか…。一般的には3歳の頃なんてそんな難しいことは考えないだろうけど、常に周囲の顔色ばかり気にして過ごしていた3歳の私だったら言葉にはしなくても何かを感じ取ってくれたと思う。秋桜と並走したあの時のなんとも言えない感情の答えが私にはまだ分からないけれど、きっと感情の答え合わせなんてそう簡単にはできないし、無理にしなくていいことだからだと思う。答えなんてどこにもないし、人がその瞬間に感じたありのままが全てだと信じているから。


秋桜は花として完成された容姿から宇宙や秩序や調和を表す言葉が名前に当てられたそうだ。秋桜を見るたびに私が普段とは違う心の動きをするのは古い思い出のせいではなく、果てしない宇宙が引き起こす一種の幻術なのかもしれない。国道沿いの秋桜は今もなお私の心をふわりと救っている。

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