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あの時「ラスベガスでポーカーをする」と、上司と大喧嘩をして10日間の有休を取った父は昭和5年生まれ

私の父は保険会社の支部長、
家族はいつでも「○○生命○○支部」の2階に住んでいました。

3年経つと転勤なので、
私は何度も「転校生」と呼ばれました。
それなりに苦労はありましたが
お陰で、いやおうなしに社交的に育ちました。

自由を愛する父が、
長期休暇はお盆5連休正月5連休しか取れない事を我慢し、
サラリーマン生活を頑張ってくれたおかげで
家族には何不自由ない生活が保障されていました。

有難いことです。
男は家族のために我慢をたくさんして生きるんだ。
そんな背中を見せてくれました。

偉い支社長さんがやってきた帰り、
長身の父はひざを折って、
自分の体を小さくしてお辞儀
をしていました。
2階の窓から駐車場を見下ろしていた私は、
子供心に
「あの人はよっぽど偉い人なんだな」と思ったものです。

そんな父が、
私が高校生の頃、突然言い出しました。
「今年は誰が何といってもラスベガスに行くぞ!」
みんなびっくりです。
「だって、いつも5日間しか休みとれないじゃん?」

「いや、有休があるから、本当はもっと休めるはずなんだ」

私「なんで今年なの?」
父「定年を待ったら55歳だぞ。あと10年もある。
だいいち、その時元気とも限らないじゃないか?」

今にしたら55才が定年なんて若いものです。
待ってもよかったかもしれませんが、
確かに健康寿命の平均に自分も一緒とは限らないし、
元気なうちにやりたいことをやるのは良い事です。

よくよく聞くと、
出世も大体めどがついてしまい、これからは上司の顔色を必要以上に見なくてもいいと考えたようです。

なるほど~

それなら、家族はみんな大賛成
若いころからの仲間と2人で、
45歳の父はラスベガスでポーカーをしました。
心の底から楽しんできました。

ちょっと子供っぽい父なんですよ。


あれから、いつの間にか47年経ちました。

先日、
その父から、電話がありました。

92歳になった父はホームで暮らして3年目になります。

「福生(29歳の孫)とアメリカに行ってる夢を見たよ」
へえ~
楽しい夢でよかったね。

「福生はアイルランドに、もう着いたのか?」
うん、
みんな親切らしいよ~

「そうか、それは良かった」
これから第二の都市へ移動するらしいよ。

「そうか、金もかかるだろう、俺の口座から充分に送ってやってくれ」
ありがとね~

※息子、抽選に当たりワーキングホリデービザでアイルランドに出発しました。


本当のことを言いますと、
2020年、ホームに入ってからの父は、なかなかでした。
「娘に閉じ込められている」と思ったり、
「娘と息子に俺の金を全部使われる」と言ったり、

「ホームの中には通帳も印鑑も置けない」と何度説明しても、
翌日には忘れて、電話がかかってきました。
「10万ほど持ってきてくれ」とかね。

み~んなに言われました。
「痴呆は病気なんだから、治らないんだから、聞き流すんだよ」とか、
「もう、お父さんと思わないほうがいいよ」とか、
そうだよね?
お父さんは悪くないし、私も悪くない。
誰も悪くない。
みんな、いつも励ましてくれてありがとね。

「介護で辛いです」って書いてる人いますよね。
そんなnoteの記事を読むたびに思いました。
「うらやましい~」
「私も、愚痴を書きたい~」って。

「本名をやめて、思いっきり愚痴を書こうかな?」って思いました。

そうだ!
洗脳だ!
と思い立ち、
ホームの差し入れには必ず本を入れました。
「感謝して暮らす」と書いてある本を大量に。
願いを込めて。

で、
どうなったと思います?

その後、
わがままを言い続けた父は、
ホームの仲間に相手にしてもらえなくなりました。

「頼りにしてるのは、お前たち家族だけだ」と電話がかかってきました。

「そんなことないよ」
「俺が行くと蜘蛛の子を散らすみたいにみんないなくなるんだ」

思い出して、お父さんはそんな人じゃなかったじゃない?
いつも人気者だったよ。

みんないい人ばっかりでしょう?
お父さん、人の悪口言っちゃダメなんだよ。
感謝して暮らすんだよ。

「そうだな」

新しい生活に馴染むのは大変だったね。
これからは、新しく入ってきた人たちを励ましてあげてね。
お父さんの役目だよ。
誰よりも社交的なお父さんの役目だよ。

「そうだな」

それから徐々に、
「楽しくやってるよ」と
機嫌のよい電話がかかってくるようになりました。


45歳で10日間のラスベガス旅行をした父は、
90歳で妻を亡くし、ホームに入りました。
その激動の変化に戸惑いながらも、時は過ぎていきます。
お正月には92歳になりました。


先月、息子と私は、ガラス越しの面会をしました。
福生が報告したんです。
「じいちゃん、アイルランドに行くから、しばらく会えなくなるよ。元気でね」

「福生はいいなあ、俺なんかどっこも行けやしない。ここから出ることもできない」

「何言ってるの?みんなでコロナから守ってくれてるんだよ~」
「そうだな、ご飯も出るしな、洗濯もしてくれるしな」

お父さんが45歳でラスベガスに10日間。
私は29歳でオーストラリアに2か月間。
福生も29歳。アイルランドはこれから1年くらいかな?
お父さんが行かなくても孫が代わりにどこでも行ってくるよ。
お父さんの自由を愛する心が伝わっていってるんだよ~

古い大木を移動すると枯れる、人間も同じだ。」
誰かの言った言葉を思い出します。

父は90歳で住処を変え戸惑いました。
2年かかりましたが、ようやく心が落ち着いたようです。
悪夢を見なくなって、孫とアメリカに行った夢を見ています。
ホームの仲間とも仲良く暮らしています。

痴呆は悪化していくかもしれませんね?
また、おかしなことを言いだす日が来るかもしれませんね?

その時は、この記事を読み返そうと思います。
昔のアルバムを引っ張り出そうと思います。
楽しかったことをたくさん思い出そうと思います。

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2021/5/24にnoteを始めました。

NO.39 あの時「ラスベガスでポーカーをする」と、上司と大喧嘩をして10日間の有休を取った父は昭和5年生まれ


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