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映画「スパイの妻」 異常な日常の正常とは

私はこの映画の事を何故かよく知らずにABEMAで無料だったので観たのです。
内容は最近観た映画では傑作の部類でした。

最近、気になる年代1940年。すでに日中戦争は行われていましたが、米英との戦争が開戦する前年の年です。日本には空爆もありませんでした。


黒沢清監督 主演 高橋一生 蒼井優


一応、戦時中のミステリーです。なので観たい方はこの先は読まないで下さい。

1940年、福原優作という男は貿易会社をやっていた。
時代は徐々に変わっていくのを感じる福原。
貿易会社の社長なので海外に興味があり、イギリス人との交流もあったが、そのイギリス人は突然国外退去の目に合う。
 福原は今のうちに満州に行こうと決め、趣味で撮っている映画撮影機材を、町を撮影する目的で持っていく。
予定よりも遅く帰った福原だった。
妻はある日から違う意味で不審がる。

映画は撮影 編集が終わり、福原夫婦が主演のトーキー映画として会社の忘年会で披露される。

それを見せられる社員は大喝采?なのだが

今だったら社長から何見せられてんだ?!
と不満が出るところでしょう…
が、当時は娯楽があまりにも少ないので余興で良かったのかもしれない。

福原の妻は夫が大好きで片時も離れたくない。
何もかも一緒。秘密もゆるさないほどの熱愛ぶりだが
蒼井優が演ずると可愛らしい妻になる。

満州に蒼井優は行けずに、その間に夫が何か秘密を持ってしまったという想像が止まらない。夢にも見る。
「女ね?」
と妻は疑う。それしか考えられなくなってゆく。
性格的にそうだし、裕福層だとしてもそれしか思いつかない普通の女であった。
さんざんさぐる妻なのでサスペンス色がそこで出てきます😅
「知らない方が良い事もあるんだ」
と夫が言わないと余計にひとりぼっちに突き放されたようになって不安で一杯になる妻。

嫉妬で妻がおかしくなっているので
夫は、満州で見た事を言う。
満州で風景を見ていたらそれは人の体の山だったんだよと。
だが、妻はそれが?何?という感じで何だか理解できなくまだ夫の浮気を疑う。(深刻に言われても戦争中だしね……)

↓ネタバレ有りだし、ここから閲覧注意です。
自己責任で宜しくです。

 夫と一緒に満州に行った文雄という男の話しから

満州での日本軍の国家機密を女から受け取ったのでそれを英訳している。国家機密を写したフィルムもある。
という事を知り、妻は夫の金庫をこっそりと開けてしまう。

そして全てを見てしまう。

当然フィルムも金庫から出して映像を見てしまう。

ようやく夫の持ち込んだものがとても大きすぎる事を知る。しかも内容は日本兵の満州での残虐行為だった。

妻聡子は少女の頃から知り合いの男がいた。
彼は陸軍憲兵になって地位も上がって性格がみるみるうちに変わっていくようだった。
その男はふたりの事が大好きなので、少々の見逃しなどがあったが夫婦は憲兵の監視対象だという情報まで伝える。

フィルムや極秘文書を手にしてから
今までの嫉妬感からのイライラは吹き飛び
夫のために一緒にスパイになる!
と、嬉々として非国民宣言?をして
行動をし始める妻。

妻のその変化が、面白い。
当時の日本人だったら突然気がおかしくなったような妻だが
夫の真剣な眼差し、人道的な意味で云えばそれは間違っていないんだと確信する。
その行動は夫から見ても唖然とするような事だったりもする。

 結局、非国民な行動は失敗に終わる。
 しかも夫も行方不明。
 ある裏切り?が分かり、妻は憲兵達の前で絶叫をして倒れる。

数年経ち、病院に教授がやってくる。
(当然のように癲狂病院。でくのぼうというドキュメントを見て思ったが、口封じのために入れられた人達もいたのではないか?と思いました)
聡子を見て
「この人が1番重いのよ」
と病室の患者が言う。
教授は聡子に会い、
「ここから出してあげるから出なさい。
君の夫の乗った船はもう、撃沈されたよ」
と言う。

聡子は暗い表情で微笑みながら言った。
「私はくるっていないんです」
うなずく教授。
「でも、この狂っている世界だから
私は狂っていることになるんです。
だから私は出られません(正確な台詞ではありませんがそのような意味の事を言った)」

そして病院や周辺は空爆に合う。
病院の患者達はみんな逃げ、聡子も仕方が無く病院から出ると
そこはまるで異世界のように風景が変わった世界だった。
まるで燃え尽きた何処かの星のようになっていて町は無く人も誰もいない。
聡子は「おみごと!」と叫ぶ。

ところでそこの「おみごと!」の意味が私は分からないのですが、夫が国家機密を無事に米国に持ち込んでそれでそうなったと思ったのだろうか…

だが、確かにその機密文書やフィルムが米国に渡っていたら、現代の感覚でいえば人道的にとても許せる事では全く無いので
普通の神経をしているんだったら何らかの手段をとるだろうなと私も思います。
しかし戦時中だし
ユダヤ人たちも酷い目にあっている。
実はジェノサイドがそこまでだと外国に知られたのはもっと先だと言うが…←ゲットー(ユダヤ人収容所)内部の話ですよ。中にいる被害者は出られませんからね…



追記:私は、戦後にやっと人権侵害をされた人間はすぐ助けるべきという教育がされて
その戦後に作られた映画だからその発想なんだろうなと思いました。(英文に訳して海外に告発するという福原の発想)

人には人権があり誰もそれを侵害してはいけないというのは戦後の憲法にあるが
日本人はそれまで、
この人は可哀想この人は可哀想じゃないという
選別された道徳感しか知らなかったのでは?と思う。

仏教等宗教の教えで人には優しくという教育はあったのかもしれない。
しかし、やはり差別は無意識的にもあるので全ての人の人権侵害を許してはならないというような概念を持っていた人は少なかったのでは無いかと思う。

この映画はヴェネツィア映画際で銀の獅子賞(最優秀監督賞)をとっている。
他にも様々な賞を貰っているようです。

私としてはこの映画は、
異常な世界は知らぬ間にやってきてあっと言う間に常識が変わる
人間は状況によっていかようにも変わる
異常な世界の中での真実
真実を知ってどうするか?
をこの映画で見せられ、その感情や行動が
今までに見たことが無い感じだったので
そこが良かった。

映画の最後の最後は謎で終わります。そこも良い。




「スパイの妻」映画の補足

黒沢清は福原が映画を撮るのが趣味という性格にしているので、その現場はフィルムで持ち込まれた。
日本に持ち込む途中で見つからなかったのは不思議だが。
その映像のシーンは、ホラー映画を撮っていた黒沢清らしく不気味に表現されている。
しかし現実は更に悲惨なので、映画の中の映画は、フィルターがかかったようになっている。

参考資料長いので一部分


Yahoo!知恵袋からの添付です。青い部分は打ち込んで検索して下さい。最近、部隊の話は嘘だと書き込んでいる人が見受けられますが、研究資料は米国の手に渡ったそうです。
終戦後、裁判も行われました。


✳また追記、加筆修正等をしました。

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