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なぜ怖い?子どもの近視に潜むリスクとは。近視進行抑制治療①

今週からは、私の専門分野「眼科」のお話を。「先生、“裸眼で遠くが見えづらい=近視”ということは、やはりメガネでしょうか?」…これに対する私の答え、それはメガネの説明だけではありません。

なぜでしょう?
…近視治療において、今やメガネは、必要「最低限」のもので、「充分な治療ではない」からです。

お子さんのために、お父さんお母さんがしてあげられることは何か?
その最新治療について、3回シリーズでお伝えします。

まずは、近視について正しく理解するところから始めましょう!

1.近視とは何か?

眼が良い人(正視)は、近くも遠くも、はっきり見えています。なぜなら、正しい場所で焦点が合うからです。(下絵参照)

一方、近視の人は、近くのものはスクリーン(網膜)上にきちんとフォーカスが合うので、綺麗に見えます。でも、遠くのものを見ようとすると、スクリーン(網膜)より手前の位置で焦点が合ってしまうので、ぼんやりしてしまい、はっきり遠くを見ることができません。

これは、眼軸といって、眼の奥行きが伸びてしまっているため、本来合うべき網膜にピント(焦点)が合わなくなってしまっている
のです。そのため、メガネやコンタクトを使い、遠くのものもピントが合うように調節するわけです。

屈折異常の種類 JPEG

2.なぜ近視になるのか?遺伝性は1~3割

近視になる理由は、多くは環境要因によるもの。遺伝性の近視は、実は全体の約1~3割にすぎません。

では、この環境要因とは何でしょう?

①30センチ未満のものを、
②ずっと継続的に見続けていること。

この2つが大きな近視要因
です。

30センチ未満というと…スマートフォン、タブレット、教科書や本、ノートなど、お子さんがよく見ているものは、ほぼすべて30センチ未満ですね!
かつ、意識的に目を休ませることなく見続けていると、目の中の筋肉を常に、ぎゅ~っと縮めて、使いっぱなしになっている状態なので、これも近視を引き起こす大きな原因となるのです。

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3.なぜ近視の治療が大切か?最大のリスクは「病的近視」

では初めてお子さんが近視と診断されたとき、どう考えたらよいのでしょう?
例えば、小学生低学年での診断、「まだ小さいし、それほど授業に支障もなさそうだから、様子見しても大丈夫か?」というケースもありますが、絶対にお勧めしません。

下のイメージ図をご覧ください。わたしは「近視の坂道」と表現するのですが、近視は一旦出始めると、坂道を転げ落ちるように、進行していくものです。男子は大体18歳まで、女子は16歳くらいまで急速に進み、その後スピードが緩やかになり、25~26歳でようやく進行が止まります。

近視進行スピード2

学童期の近視発症は、個人差(遺伝子)、環境要因はあると思いますが、治療をしない限り、進行具合は良くなることはないと思ってください。

学童期の近視が酷くなり、強度の近視になると、将来的にメガネが分厚くなり、コンタクトも特注、レーシックも適応外で眼内レンズを入れて矯正するICL手術が必要になることも。

そして何より、我々眼科医が一番恐れるのは、子供のころの近視が原因で、大人になった時の視力を奪う「病的近視」になることです。

では、どのような状態を「病的近視」と言うのかご説明します。
視力には、長さや重さの単位と同じように「ジオプター」と呼ばれる単位があります。正常な視力を1.0としたとき、その単位は0ジオプター。
例えば視力が0.8となると、-0.5ジオプター。マイナス(-)が近視であることを表し、近視が強くなるごとにジオプターの数値が大きくなります。

思春期の近視進行スピードはとても速く、最も進行が速い6~9歳のお子さんは1年で-1.00、つまり0.5も視力が落ちてしまうこともあります。
病的近視というのは下の表で言うと一番下、-6.00ジオプター以下のエリア、視力でいうと0.1を切り、視力検査表の1番上すらも見えない状態です。

進行スピード2

なぜ病的近視になると、将来的に視力が奪われる恐れがあるのでしょうか?

子供の眼球はだいたい6-7歳で大人とほぼ同じ状態まで出来上がります。
眼がいい人は、球状に育ちますが、近視が進んだ人の眼球はラグビーボールのように奥行きが伸びてしまうのです。(下写真)

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その結果、光を受ける網膜(もともと厚みのあるもの)が、奥に引っ張られて薄くなるので、網膜剥離になりやすい。

また、私たちが見ているものの映像は、視神経を通して映像処理されるのですが、この視神経が奥に引っ張られて細くなり、視野が欠けていく緑内障にもかかりやすくなります。

このように、学童期に進みすぎた近視(強度近視)によって、眼の網膜や神経が傷害され、重篤な視力、視野障害をきたす近視のことを「病的近視」と言います。

子供の頃は大きな進行がなくても、お子さんたちがお父さんやお母さんの世代になる頃に、網膜が剥がれ落ち、視神経が細くなり、光を感じられない箇所が出てくるという最悪なケースは、絶対に避けなくてはなりません。

4.平均107歳…生きている限り眼を使えるように…

今、日本人の失明原因の第5位は病的近視、人口の5.5%が近視が原因で失明という運命をたどっています。寿命が延び、2007年以降に生まれた人の半数は107歳まで生きると言われる中、子どもたちの眼は107歳まで、絶対に使えるようにしておかなければならないのです。

最も進行が速い6~9歳のお子さんは、たった1年間で0.5も視力が落ちてしまうこともあります(例:1.0➡0.5)近視が見つかったらすぐ治療開始、これが病的近視にしないための大原則と思っていただきたいです。その打ち手として、近視の進行を「抑制する」治療が既に始まっています。

次の回でご紹介しますので、ご興味のある方は、ぜひ読みにきてくださいね!

5.まとめ

①近視の原因は、環境要因。
30センチ未満のものを、継続的に見続けると、近視のバッドスパイラルへ

学童期の近視は、「病的近視」に繋がる恐れ。特に6〜9歳は、あっという間に視力が落ちていく年齢。将来、網膜剥離や緑内障を引き起こさないためにも、見つかり次第すぐに治療を始めよう。

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