4ヶ月で読んだ62冊のうち、特に好きな9冊の話
「読書を始めて、人生が変わりました」
こんな謳い文句を見るたびに、なんとも言えない気分になります。身近にあるはずの読書が、まるで別物のように見えてくるのです。自己研鑽やビジネスの道具として、読書が使われている現実。そんなもの読書ではない!とはなから否定する気はないけれど、少なくともわたしの読書とは別物だな、と思ってしまいます。
読書は、いつだって人生の傍に理由なく存在していました。本を読む/読まないの選択肢があるわけではなく、常に本は『読むもの』でした。
2024年に入ってからの4ヶ月間で読んだ本は、計62冊でした。一覧がこちら↓
ほとんどが小説とエッセイ、たまーにビジネス書といった具合ですが、なかでも2月3月はエッセイブームが来ているのが分かります。他人の日常や考え方に触れながら、自分の考え方の癖を知りたい気分だったのかもしれません。本当のところは分からないのが本音です、自分のことなのに。
対して4月は小説が多め。エッセイを読みすぎて疲れてしまったのか、物語の世界にどっぷり浸かっていました。
普段、読んだ本はInstagramに載せています。
紹介といった大層なものではなく、印象に残った文章や、それについて考えたことを個人的な『言葉の記録』として残しています。だから読んだけど載せていない本もあるし、情報量は少ないですが、気になったら覗いてみてください。
62冊のいずれにも思い入れや印象的なポイントはありますが、このnoteでは特に好きだった9冊についてまとめまていこうと思います。
「好きだった」なので、ランキングを付ける目的はありません。面白い、人に薦めたい、みたいな基準でも選んでいません。あくまで、個人的に好きだった本の備忘録です。
では、早速。
※この記事には一部ネタバレを含みます
※基本的には読み終わった順です
①さんかく / 千早茜
千早茜さんとの出会いは、エッセイ集『わるい食べもの』でした。なんとも魅力的で悪そうな食べものと、いかにも美味しそうな描写力。そして何よりも千早さんの豪快であたたかい人柄に、一瞬で惚れ込んでしまったのです。
本作に出てくるのは、女・男・女の3人。
これだけ聞くと泥沼恋愛小説のように思えてきますし、実際に恋愛(仮)の話でもあるのですが、泥沼じみた醜悪さは全くなく、心を朗らかにあたためてくれる作品です。
注目するべきは、やはり千早さんらしい食のエッセンス。食をきっかけに近づく男女......男の方には彼女がいて、仕事に夢中なあまり食をおざなりにしている。
食事を摂るって、どういうことなんだろう?
恋人って、人を好きになるってどういうこと?
そんなことを考えながら読んでいました。
3人それぞれの気持ちが理解できるからこそ難しい。
結末もスッキリしていて、爽やかな気持ちで本を閉じることができました。
②透明な夜の香り / 千早茜
千早さんが続きますね。
こちらの作品は表紙からも伝わってくる通り、さんかくとは少し違ったミステリアスな雰囲気。ダーク...とまではいかないものの、ほの暗い世界観が広がっています。
仕事を辞めて暫くした主人公・一香は、とある古い洋館で家事手伝いのアルバイトをすることに。そこにいたのは調香師の小川朔。様々な悩みを抱えながら朔のもとを訪れてくる、お客様の秘密を『香り』で解き明かしていくうち、いわゆる天才である朔自身の秘密にも触れていって......?といった内容です。
この朔がね、まあ〜〜〜どえらい男なんですわ。
Oh...........
そう、朔が一香に抱き始めた、抱いてしまった感情は何なんだろう、というのが後半部分の大きなテーマになってきます。自分の感情が分からずに悩む天才......全ヲタクが好きなやつだ.......。
朔が出した結論も、また全編を通して漂ってくる香りの描写も、とっっっても魅惑的でした。
ちなみに『赤い月の香り』という続編もあります。
③うたうおばけ /くどうれいん
俳句に短歌、エッセイ、小説、更には絵本まで。多彩すぎる作家、くどうれいんさんによる『ともだち』との日々を書いたエッセイ集。
個人的れいんさんデビューを飾ることになった今作ですが、何故こうも日常を切り取るのが上手いのか......!と唸りました。どれも創作なのかと疑ってしまうぐらい嘘みたいな日々。そう思わせられるのは、れいんさんのアンテナが鋭すぎるからなんでしょう。わたしが全く同じ生活をしても、同じようなエッセイは書けないと思います。
そして、登場人物のキャラの濃さよ!
ミドリが出てくる回が1番好きです。
少しネタバレになってしまいますが......先日、平野紗季子さんのPodcast『味な副音声』にれいんさんがゲストとして出演されていた回での話が素敵だったので紹介させてください。
な〜んその素敵すぎるエピソード.........。思わず頭を抱えてしまったリスナーは、わたしだけじゃないはず。
たった1作読んだだけでファンになってしまったので、続けて『わたしを空腹にしない方がいい』『虎のたましい 人魚の涙』、そして最新作の『コーヒーにミルクを入れるような愛』も読みました。すっかりくどうれいんワールドの虜です。
④なにごともなく、晴天 / 吉田篤弘
高架下の商店街、晴天通りの住人と、コーヒーと銭湯を愛する謎の探偵が織りなす物語。住人たちの『ひみつ』が段々と繋がり新たな一歩になっていく過程が面白く、そしてなによりも優しくあたたかい気持ちになれます。
ひとつの章が10ページ前後でとても短いので、寝る前に少しずつ読み進める本としても良いかも。作風的にも夜読むのにピッタリです。
句点を多用した独特なテンポ感の文に、遊び心のある言葉選び。文章だけでも(=物語性を鑑みなくても)大好きな作家さんの1人です。いや、もちろん物語も最高なんですけどね。
ジェットコースターみたいに激しい展開があるわけでもなく、深く考えさせられるようなテーマを扱ってるわけでもなく、淡々と平穏な世界が広がっているのに、ふとした瞬間に「ハッ」とさせられる言葉が転がっている。(投げ込まれる、のではなく、ただそこに転がっているイメージ)
社会に疲れてデロデロに溶けそうなとき、読みたい一冊です。
⑤書きたい生活 / 僕のマリ
『常識のない喫茶店』というエッセイで有名な僕のマリさん。その後の話が書かれているのが今作です。実は喫茶店の方は読んだことがなく、初の僕マリさんでした。
日記文学、と言うんですかね。
いくつかのエッセイに加えて、日付が入った日記が続いていて、日記本を読んだことがなかった私には新鮮でした。
そして何を隠そう、この作品に影響を受けすぎたあまり自分でも日記を書き始めました。最近はサボり中。5月は毎日書いて、週に1回noteで更新することが目標です。(言ってしまった......)
『日記は筋トレに似ている』と評するところが、ストイックさを超えた、日記そのものへの愛情が伝わってくるようで良かったです。
日記文学といえば、こちらのzineも面白かったです。
⑥水中の哲学者たち / 永井玲衣
哲学研究者であり、哲学対話のファシリテーターを務める永井玲衣さんによる哲学エッセイ。
哲学対話については詳しく説明している記事があるはずなので省略しますが、こちらの本では難解な単語や専門用語は一切なく、(語弊を恐れずに言うと)軽い気持ちで読める、唯一無二の哲学書です。
哲学を学問の枠だけに嵌めるのではなく、行為や営みと表現する考え方が、自分のなかでしっくりきています。あ、わたしが考えてたのはこういうことだったんだな、という感じ。
他にも、こんな文章が印象に残っています。
哲学に馴染みのない人、難しそうなイメージを抱いている人にこそ読んでほしい。不思議な1冊です。
⑦ここはすべての夜明けまえ / 間宮改衣
Twitter(いまだにTwitterと呼んでしまう)で情報が流れてきた時、あまりに特徴的な装丁に一目惚れして「絶対買う!」と決めていた本。内容は一切調べずに買った所謂ジャケ買いですが、結果的にジャケ買いして本当に良かった......。この物語に出会えて良かった、とまで思える作品は久々に読んだ気がします。
第11回ハヤカワSFコンテストで特別賞を受賞した作品ということで、note等のSNSで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。星野源のオールナイトニッポンでも紹介されたそう。
『老いない体を手に入れる手術』という、SFでしか有り得ない設定。しかし、そこに加えられる要素は児童虐待、性的虐待、自殺、環境問題、等々あまりにも生々しいもの。特にゾッとするのは、物語の中でこれらが『問題』として扱われておらず、当然な顔をした現実として存在していること。登場人物が、なんの疑問も抱いてないこと。
全くのフィクションなはずなのに、どこまでが現実なのか分からなくなります。そもそも、本当にフィクションなのか? いつかの未来、下手したら現在進行形の、現実なのかもしれません。
⑧きみのお金は誰のため / 田内学
帯に『教養小説』とあるように、ビジネス書でありながら小説でもある作品。書店ではビジネス書コーナーに置いてありました。
たしかにビジネス書的な要素もあるものの、個人的には小説の側面が大きく感じました。なんというか、単純に物語として面白いんですよね。面白い小説を読んでいる時の、一気に読み進めてしまう感じ。先が気になって、時間を忘れて次々とページをめくってしまう感じ。これが一般的なビジネス書とは少し違う点だと思います。楽しく読めるって、当たり前だけど本当に大事!
お金の本と聞くと、いかにお金を稼ぐか/使うか/貯めるかを書いたHow to本、あるいは道徳的、倫理的な啓発本をイメージする方が多いと思います。
いずれにも当てはまらないのが、この本の魅力。
「そもそもお金とは何か?」といった、お金の価値そのものに対して、あくまでも事実ベースに迫っていく様子が新鮮で面白かったです。
ビジネス書ビギナーも、玄人も楽しめるはずです。
⑨スター / 朝井リョウ
『何者』を読んだのは、たしか中学生の頃でした。就活のことなんて、社会のことなんて全然知らない。そのくせ自尊心だけはある中学生の前に、ナイフのように突きつけられた衝撃を今でも覚えています。
あれから約10年。その間、朝井リョウさんの作品を1冊も読んでいなかったのは、果たして偶然でしょうか。歳を重ねるにつれて、社会の中に溶け込んでいくにつれて、ごく自然に距離をとっていたような気がします。人間の醜さが詰まった現実も、それに気づかずのうのうと生きている自分にも、気付くのが怖かったから。知らないことほど怖いことはないけれど、その事実さえ知りたくなかったのです。
中高生の間、減っていく一方だった自尊心は、10年経ってようやく上向きになってきた気がします。自尊心が何なのかについても正直よく分かってないし、社会のことも全て知ったわけではないし、いまだに知らないことだらけだし、もう「知らない」で済ませられるほど子供ではないことにも気付いているけど、だからってどうにかなるわけではなくて。
多分、鈍感になったんだと思います。図太くなったんだと思います。大人になるということは、鈍感になることなのかもしれません。
少しの刺激で揺らいでしまう若さゆえの感性は、失われつつある今、すごく愛おしいものに見えてきます。
今なら読めるかも。そう思って、10年ぶりに朝井リョウさんの作品を手に取りました。買った日のうちに読み始めて、その日のうちに読み切ってしまいました。
何冊か本を読んだだけで、見える世界が変わるなんてことはありません。そんなに世界は単純じゃないし、読書が万能なわけでもありません。
「読書を始めて、人生が変わりました」
人生を変えるために読書をしているわけではないのに、読んでいるうちに、人生を変えようと試みている自分に気づくことがあります。
勘違いも甚だしい。読書で人生を変えられるほど、わたしは出来た人間ではないから。読み終わった本の内容なんて、すぐに忘れてしまう人間だから。
読書に理由を求めたくない、という拘りがあります。こうやって考えていること自体が矛盾しているのかもしれないけど、でも、わたしはやっぱりただただ読んでいたいのです。
よく分からないところに着地してしまいました。
これでこそ、わたしらしい読書の形なのかもしれません。
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