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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第九話(4) 早い者勝ちの世界

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 そして、その世界へ僕はたどりついた。

 脳が、身体が、へとへとになっていた。甘いものが食べたい。
 でも、心はそれ以上に興奮していた。バローネ理論が実現可能なものへと一気に近づいたのだ。

 どうして、これまで気づかなかったのだろう。
 ほんの些細な、けれど重要な分岐点を僕は見落としていた。

 顔を上げると、フローラの膝枕でレイターは寝ていた。少女が優しくレイターの頭をなぜる。
「レイター、起きて」

膝枕

「ふが、できた?」
「あ、ああ。できた。できたぞ。できた!」
 僕は大声で叫んでいた。

「ジョン・プー、おめでと」
 少女とレイターは、顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
 二人から幸せという名の祝福のオーラが飛んできたように感じた。

「早いとこ、学会へ提出した方がいいんじゃねぇの。誰かに気づかれたら終わりだろ。サッパちゃんに怒られるぜ」
 レイターの言うとおりだ。高揚感から一気に現実へ引き戻される。

 今、この瞬間にもマルガニ係数の虚数に気付いた人が、修正を名乗り出てしまうかもしれない。

「こ、ここから通信使わせてもらっていいか」
「どーぞどーぞ」
 僕は、大慌てでバローネ理論の修正申請をした。

 どうか、誰よりも早く。
「修正した論文は届きましたでしょうか?」 
 僕の発想から生まれた、僕にとっては子供のようなものだ。他の誰にも渡したくない。

 焦りながら手続きに追われるその横で、レイターとフローラが仲むつまじく話をしていた。
「な、ジョン・プーはすごいだろ」
「ええ、レイターとは違って一直線よ」
「しょうがねぇさ。俺は操縦士だ、設計士じゃねぇんだ」


 修正申請が受理された。
 僕はほっとしながら担当教官のサパライアン教授に、事後承諾の連絡をいれた。

 「ジョン、君は本物の天才だ!」
 教授は通信機の前で、個性的なしゃがれた大声をあげた。

サパライアン白衣驚き

「い、いえ、とんでもありません」
「これで君のバローネ理論は完璧なだけでなく、実用化に向けて大きくはずみがついたな。キンドレール賞も夢じゃない」

 キンドレール賞。
 あまりにもビッグな賞の名前を耳にした途端、僕は我に返った。
「ち、違うんです、これは」

 僕じゃない。彼女だ。

 フローラが指摘したからわかったのだ。
 しかも、さっき彼女は何と言っていたか。
 レイターと違って一直線、と。おそらく、彼女は、そしてレイターもすでにこの結論にたどり着いていたのだ。

 僕の足が震えだした。

 とその時、
「はぁ~い。サッパちゃんおげんこ?」
 レイターが通信機の前に立った。
「何じゃお前か」

 研究室にしょっちゅう顔を出していた宇宙船お宅のレイターは、サパライアン教授と馬が合った。

「プーさん凄いじゃん」

正面にやり

「そりゃそうじゃ、わしの一番弟子だ」
「これで儲けたらおごってくれよ」
「何でお前におごりゃにゃならんのだ」
「だって、俺の部屋でできたんだもん。ショバ代さ」
「まあいい。この修正は画期的な発見じゃからな。今度、遊びに来い。飯ぐらいおごってやる」
「やったぁ。じゃぁね」
 と言うが早いか、レイターは通信を切ってしまった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「あん?」
「これはおかしい」
「何が?」
「君たちは、僕より先に気づいていたんだろ」
「君たち、ってのは間違ってるな。気づいたのはフローラだ」
「やっぱり駄目だ。彼女の名前で申請し直そう」
「別にいいじゃん。な、フローラ」
「ええ」
 彼女は静かに微笑んだ。

「よくない!」
 僕は腹の底から怒鳴るような声を出した。こんな風に人に声をぶつけたことが、これまであっただろうか。     最終回へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」