銀河フェニックス物語<出会い編> 第七話(7) 真っ赤な魔法使いはパズルもお得意
「ほれ、料理はちょっとしたコツで変わるんだ。あんた、右足をちょっと後ろに引いてみな」
「右足?」
レイターが言う通り調理台と並行に置いていた足の位置を変える。
本当だ、包丁が使いやすい。
「すごい」
思わず感嘆の声が出る。
「ま、ガキだから仕方ねぇな」
レイターの言葉にカチンときた。
「ガキじゃありません。料理が下手なだけです。何度も言いましたけど、わたしたちアンタレス人は十六歳は成人なんです。結婚だってできるんです」
「ほう」
しまった、余計なことを言った。
結婚なんて例を出さなきゃよかった。
「ティリーさんの気持ちはありがたく受け取っておくよ。俺との結婚を考えていたとは・・・」
「ちがいます!」
「悪いが俺は特定の女性とはつきあわねぇ主義なんだ。残念だったな」
「残念でも何でもありません!」
アーサーさんがこっちを見て笑っている。恥ずかしい。
*
二人のやり取りを見ながらアーサーは思った。レイターのあんな表情を見るのは久しぶりだ。
ティリーさんと初めて会ったのはここフェニックス号のリビングだった。
その瞬間、似ていると思った。
レイターは即座に否定した。
だが、私のファースインプレッションは間違っていない。
*
約束の日曜日。
本社の駐機場でレイターがフェニックス号に試乗船のアラマットを積み込んでいた。
ペーパードライバーのティリーはその様子を見ながら感心していた。
銀河一の操縦士はいつ見ても腕がいいわ。
フェニックス号に乗り込むと、居間のソファーに白衣を着たアーサーさんが座っていた。
わたしはあいさつした。
「お忙しいところすみません」
「こちらから言い出したことですから、気になさらないでください。それより、問題を作ってみました」
アーサーさんが楽しそうにタブレットを操作した。
図形の問題だ。
「これが自分の中では一番の良問です。この図の中にある三角形を十個探してください」
不思議な幾何学模様だ。じっと見つめる。
レイターも問題をのぞき込んだ。
小さいもの、大きいもの次々と三角形が見つかる。けれど、七個から先が見つからない。
「ヒントはこの辺りです」
アーサーさんが示したヒントの辺りを見ると急に視界が広がった。
八個目、九個目がわかった。あと一つ。
見つけた、と思うと、さっきすでに見つけたものだ。
わかりそうで、わからない。
「全体を見るようにしてみて下さい」
アーサーさんの声にかぶせるようにレイターが叫んだ。
「十個目見つけた!」
悔しい。と思った瞬間に見えた。大きな三角形が。
「わかったわ!」
思わず膝を手で打ちたくなった。爽快だ。どうして今まで気がつかなかったんだろう。
でもこれ、ヒントが無ければかなりの難問だ。
「もしくはこちら」
次の問題をアーサーさんが示した。これも面白い。
「こんなものも作ってみました」
次から次へとアーサーさんがパズルを提示する。
「あんた、いくつ作ったんだ?」
「とりあえず百問だ。まだいけたが、キリの良いところでやめておいた」
「すいません」
驚きながらわたしは頭を下げた。
いったいどのくらいの時間と手間を取らせてしまったのか。何時間、いや下手したら一日じゃ終わらない。
「ティリーさん、謝ることないぜ。こいつ、こういうことやるの大好きだから。あんた、楽しかっただろう?」
アーサーさんが笑顔で答えた。
「ああ、つい時間が経つのを忘れてしまった」
「ちなみにどのくらいかかった?」
「問題はすぐ頭に浮かぶんだが、解答含めて文字におこすのに手間がかかった。二十分ぐらいか」
「・・・」
もう、わたしは何も言えなかった。
本物の最終兵器だ、この人は。 (8)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」