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銀河フェニックス物語<出会い編> 第七話(8) 真っ赤な魔法使いはパズルもお得意

 <第七話のあらすじ>
顧客のジョンソンから頼まれた難問パズルを天才軍師のアーサーが作成した。そのパズルをもってティリーはライバル社との試乗対決に臨む。(1)~(7) 

 ジョンソンさんの自宅近くにある公共駐機場にライバル社ギーラルのハールが停まっていた。

 その前に真っ赤な髪の毛の魔法使いが立っている。  

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 フェニックス号からレイターがアラマットをハールの隣へと降ろした。
 見た感じ、軽さが売りのハールは安っぽい。
 それと比べるとうちのアラマットの方が断然カッコいいし、高級感がある。

 ジョンソンさんがやってきた。
「いやあ、比べてみるもんだねぇ。パンフレットと実物はかなり違うね」
 これは、うちにとって良い評価だ。
 ハールの実物はパンフレットの写真よりかなりチープだ。

 魔法使いは一向に気にせず、ジョンソンさんに話しかけた。
「どうです、ハールは? 燃費の向上という一点をとことん追及して作り上げました。合理的なお考えのジョンソンさんにピッタリですよ」
「そうだね。僕に合いそうだね」
 わたしも負ける訳にはいかない。

「アラマットをご覧ください。質感もデザインも洗練されています」
「そうだね。格好いいね。まあ、僕は見た目にはこだわらないけど」 
 うまく返す言葉が見つからない。
 魔法使いがチラリと勝ち誇った目でわたしを見た。 
 思わず唇を噛む。

 ジョンソンさんはまずハールに乗り込んだ。
 助手席に魔法使いが座り、甲高いエンジン音と共に飛び立っていった。

 十五分程してハールが戻ってきた。

 操縦席のジョンソンさんが笑っている。魔法使いと楽しそうだ。
 あんな風に弾んだ会話がわたしにできるだろうか。趣味のパズルの話をすればいいのだろうか。いや、無理だ。
 不安になる。

 ジョンソンさんがハールから降りた。
「中々面白い船だね」
「ありがとうございます」
 魔法使いが頭を下げた。

「さて、クロノスさんの船も楽しみだね」
 そう言って、ジョンソンさんはアラマットの操縦席に乗り込んだ。わたしは説明のため助手席に座る。
 アラマットがスタートした。

「このアラマットは走り出しも静かで乗り心地もお勧めです」

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「そうだね。ハールとはかなり違うね」
 好感触だ。

「長時間の操縦でも疲れないんですよ」
「そうかもね。僕は長く乗ることはないけれど」
 会話がはずまない。アラマットが宇宙空間へ飛び出した。 

 この試乗の間にライバルの魔法使いに聞かれないように金額の話をしてしまいたい。わたしは切り出した。
「価格の件ですが、若干の値引きが可能です」
「それは嬉しいな」
 わたしは課長と相談した額を操縦席のジョンソンさんに伝えた。 

「へえ」
 ジョンソンさんは意外だという声で言った。
「この船、ハールよりもかなり高いんだね」

 わたしは息をのんだ。
 魔法使いは一体いくらを提示したのだろう。

 もう、アラマットはこれ以上引けない。そもそも武器にならない値引きということはわかっていたけれど。
「僕が求めるものと、違うんだよなあ」
 価格と節約を重視するジョンソンさんの興味がアラマットから消えていくのを感じた。

 負けた。ハールとの戦いに。

 もう、難問パズルの出番もない。折角アーサーさんに作ってもらったのに。

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 ジョンソンさんと何を話したらいいのだろう。
 沈黙のままアラマットは衛星を折り返し、帰途に就いた。

 その時、気がついた。
「ジョンソンさんって、操縦お上手ですね」
「よく言われるよ」
「わたし、S1レースが大好きで、操縦は見る目があるんですよ」
「僕は自分の船には興味が無いんだけど、エンジニアだからね。機械を動かすことは好きなんだ」

 ジョンソンさんに親近感を感じた。

 今回ハールに負けても、次がある。ハールの寿命が短ければ、すぐにチャンスはやってくる。
 その時には、ジョンソンさん好みの船をお勧めできるはずだ。燃費だってギーラルに負けない船を研究所が開発しているに違いない。

 急に気分が明るくなった。
「末長くお付き合いお願いしますね」
「何だか、プロポーズみたいだね」
「ほんとですね」
 ジョンソンさんと二人で笑った。

 地上へ戻り笑顔で船から降りると、魔法使いが探るようにわたしたちを見ていた。    (9)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」