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銀河フェニックス物語<少年編> 腕前を知りたくて(中)

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>マガジン
<少年編>腕前を知りたくて (上) 

 モリノ副長の船が発進した。

「そんじゃあ、アーサーこっちも行くぜ」

12横顔@2にやり

 レイターはゆっくりと船をスタートさせた。驚くほど滑らかに動き出す。

 戦闘機は一般の民間機より操縦が数段難しいはずだが、彼はまるで苦にしていない。
「ほう、ちゃんと飛ばせるじゃないか」
 副長の感心した声が通信機から聞こえた。

 訓練コースを軽く一周飛ばした後、副長の船はスピードを上げた。
「大丈夫か。ついてこられるか」
 副長が挑発する。
 レイターは緩やかにそして確実に加速させた。すぐに追いついた。

 外から見ていてもわからないかも知れない。乗っていると実感する。加速しているのに重力のかかりがとても軽い。彼はどうしてこんな風に操縦ができるんだ?

 レイターのつぶやく声が聞こえた。
「直線の加速はS1のが速いな」
「まるでS1機に乗ったことがあるみたいな言い方だな」

少年前目む

「たまに操縦させてもらってたんだ」
 さらりと彼は言った。銀河最速レースのS1機に一般人が乗れるわけがない。だが、冗談というわけでもなさそうだ。彼はこの扱いにくい戦闘機を難なく操縦している。
 そして、裏社会の帝王ならS1機を用意できても不思議ではない。


 ひとしきりコースを周回したところで、レイターが副長に呼びかけた
「なあなあ、副長さん、バトルしねぇの?」
「何を言ってるんだ。とりあえずお前が操縦できることが確認できたから、これで帰るぞ」
「えっ、もう・・・」
 レイターの落胆した声が聞こえた。

 もう少しレイターの腕を見てみたい気がする。僕はモリノ副長に提案してみた。
「副長、まだ時間はあるので模擬弾で宙航戦訓練をしませんか?」
 モリノ副長は戦闘機乗りだ、宙航戦と言えば乗ってくることはわかっていた。
「ふむ」
「私も訓練がしたいのですが」
「わかった。だが、手は抜かんぞ」
「イヤッホー!」
 レイターの喜ぶ声が耳にうるさかった。

 一旦、二機は別々の地点へと分かれた。K1ポイントで遭遇、戦闘という想定だ。
 副長から訓練開始の信号が届いた。

 機体が一気にスタートした。シートに身体がぐっと押しつけられる。さっきまでの加速とはまるで違う。人体への負荷が高い飛ばし。
 K1ポイント付近でモリノ副長の船をレーダーが捕捉した。もちろん副長も気づいている。

 副長が絶妙のタイミングで模擬弾を撃ってきた。
 ダダンッツ。

 急な横Gがかかる。間一髪のところでかわす。思った通りだ、レイターは自在に戦闘機を操っている。

「アーサー、やるな」

横顔前目微笑逆

 副長は僕が操縦していると思っているのだろう。僕は何もしていない。だが、そう答えるのはやめた。

 モリノ副長は今は指揮官だが、昨年まで現役パイロットだった。腕は衰えていない。攻撃が激しくなった。
 副長の機体が目視で確認できる距離へと近づく。

 レイターは高速で繰り出される模擬弾を右に左にと器用に避ける。
 それだけじゃない。時には背面飛行を交えて追尾ミサイルをロックオンさせない。
 耐G訓練を受けてきた僕でも必死にこらえないと意識が飛びそうになる。レイターは平気なのか。

 それにしても逃げてばかりだ。宙航戦は敵機を撃ち落とさなければ勝てない。
「レイター、撃ち方がわからないのか?」
「あん?  バカにすんな。一発で撃ち落とすタイミングはかってんだ」
 副長もベテランだ。簡単には敵に背中を見せたりしない。一発で撃ち落すなんて無理だ。
「副長さんも上手いが、あんなやったらめったら撃ってたら弾がもったいねぇだろが」
 決して副長は無駄に撃っているわけじゃない。
「そろそろ行くか」

アイス少年眉きり笑い

 レイターはそう言いながら速度を上げた。副長の船に真っ正面から突っ込んでいく。
「どうする気だ?」
 僕は慌てた。こんな捨て身な攻撃を士官学校でやったら、単位が取れないどころか大目玉だ。

「黙って見てな」 

 副長も驚いている。
 機体前方の機関砲で応戦してきた。レイターはその弾をかわしながら接近する。体当たりする気か? まるで特攻だ。

「アーサー、お前何を考えている!」
 モリノ副長の声が響く。
 操縦しているのは僕ではない。僕にもわからない。どちらかがよけなければぶつかるチキンレース。     下巻へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」