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銀河フェニックス物語<少年編> 腕前を知りたくて(上)

レイターとアーサーが十二歳。出会ってまもない頃のお話です。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>マガジン

 戦艦アレクサンドリア号、通称アレックの船。
 銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこの船は、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。


 僕たちの船は、惑星ガガーブに立ち寄ることになった。
 燃料を補給するその日は街へ出て遊んでも、艦でのんびりゆっくりしても個人の自由だ。

 この星の衛星には連邦軍の戦闘機用訓練場がある。
 僕はアレック隊長に進言してみた。
「レイターを訓練場で戦闘機に乗せてみてはどうでしょうか?」
「アーサー、お前、何考えてるんだ?」

アレックとアーサー

 隊長はあきれた声を出したが、僕はまじめだった。

 シミュレーターの扱いを見ても、買い出しの際のコンテナ船の操縦を見ても、レイターはかなりの技術で船を動かすことができる。
 彼がどの程度の腕前なのか知っておきたい。免許がないから公道で飛ばさせるわけにはいかないが、訓練場なら彼に操縦させても法には触れない。

「万一の時に備えて、レイターも避難船の操縦ができた方がいいと思うのです」
 この艦に乗っている者はコックのザブリートさん含め全員船の免許を持っている。有事には避難船を扱うこともあるからだ。

昔コックザブリート@2笑顔

  食事係のアルバイトで十二歳のレイターは免許取得年齢に満たないが、シミュレーターを使った操縦訓練にも参加しているし、訓練場で実機に乗せてみることには合理性がある。

「教育係のお前が言うのなら、一度操縦させてみるか」


 訓練場へは戦闘機乗りのモリノ副長がお目付け役としてついていくことになった。
「え? お、俺、戦闘機に乗っていいの? マジ? イヤッホー」

12正面笑い

 レイターは興奮のあまり後方宙返りをしている。
「へへ、銀河一の操縦士は、戦闘機にも乗れなくちゃいけねぇもんな」

 その無邪気に喜ぶ様子を見ながら、モリノ副長が不安げに僕に言った。
「アーサー、いきなり戦闘機というのは無理じゃないのか?」

モリノ前目一文字逆

 モリノ副長はアレック隊長とは違って心配性で細かい。
 副長はレイターが地球にいたころ無免許で船を操縦していたことを知らない。だが、そのことを言うわけにはいかない。

「副長もご存じのように、戦闘機用シミュレーターでのレイターの成績は優秀です。それに、二人乗りの複座戦闘機ならいざという時、後部座席から僕が操縦できますから」

「お前が一緒なら心配することはないか」
 僕はアレクサンドリア号の戦闘機訓練で成績は上位だ。士官学校では常にトップだった。

 体の小さなレイターにサイズがあう戦闘機用のヘルメットはこの艦にはない。普段使いのヘアバンド式をかぶらせる。民間機より危険度は高いが仕方ない。
「大丈夫、平気平気。いつもメットはこんな感じさ」

 衛星の訓練場までは公道だから僕が操縦する。
 二人乗り戦闘機の前の操縦席に僕が、後部座席にレイターが座った。

「やっぱ実物はいいねぇ。戦闘機に乗るのは初めてだ」
 レイターのうっとりとした声が後ろから聞こえる。
「とりあえず、君は座っていればいい」

少年横顔青後ろ目真面目

 二人乗りだが、僕の操縦席だけですべて完結できる。
「遠慮するなよ。俺がナビゲーションしてやっから」
 船をスタートさせるとレイターはデータの読み上げを始めた。
 驚いた。
 彼は僕が必要とする情報を、タイミングも内容もコンピューターナビより的確に入れた。操縦桿の操作に集中できる。
 悔しいが、これほど操縦がしやすいと思ったことはなかった。


 軍の訓練場に着くとレイターと僕は座席を入れ替わった。レイターは嬉しそうに前側のメイン操縦席に座った。
 戦闘機の操縦席は僕にはやや狭く感じるが、彼には操縦桿が少し遠い。
「よろしく頼むぜ」
 挨拶する声が聞こえた。返事をしようとして気がついた。僕に呼びかけたわけではなかった。彼は船と会話をしていた。

 モリノ副長の指示が入る。
「レイター。まずは私の後ろについてこい。シミュレーターと同じように操縦してみて、できなければアーサーが後部座席からフォローしろ」
「わかりました」
 と僕は答え、レイターは舌打ちをした。
「ちっ、信用ねぇなあ」

 そして彼は副長に聞こえないようにつぶやいた。
「あんたより、俺のがうまいと思うぜ」     中巻へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」