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銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(1) 風の設計士団って何者よ?

 <これまでのお話>
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「ねえティリー。レイターさんを紹介してもらえない?」
 会社で同期のチャムールから声をかけられた。

 眼鏡が似合う端正な顔立ち。
 落ち着いているその様子は一見のんびりしている様にも見える。

n50チャムール笑顔逆

 チャムールは工学系の大学院を出て、今はうちのクロノス社の新型船開発担当。在学中に宇宙船の一級設計士の免許を取ったという才女だ。

  先日売り出した新型船『グラード』は彼女が初めてメインで作った。

 いい船なのだけれど、グラードは思ったように売れなくて、営業部門は苦戦している。

 わたしはレイターのおかげでスチュワートさんという大物顧客と契約できて何とかノルマをこなせた。

 けれど、ほかの部員は売れないのを船のせいにしていた。
 社内では設計責任者のチャムールに対する風当たりが厳しく、最近元気がないと聞いていた。 

 厄病神のレイターに会ってどうしようと言うのだろう。

「別にいいけど、どうして?」
「彼が船の設計をするって話を聞いたことある?」
「設計? 船の改造や修理はしょっちゅうしてるけど」
 レイターが手を加えると船が魔法のように生まれ変わるという話はよく耳にする。
「じゃあ彼がどこでそれを勉強したのか知ってる?」
「さあ?」
「本人に聞いてみたいの」

 チャムールが何を知りたいのかよくわからなかったけれど、とりあえずその場でフェニックス号に連絡を入れた。本人が出た。
「レイター、週末あいてる?」
「う~ん」
 歯切れの悪い返事だった。

「土曜の昼からS2のレースがあるんだよな」
 銀河最速のS1よりランクが一つ落ちるクラスの宇宙船レースだ。
「船で見る予定だから来てくれるんならいいぜ」

n203レイター正面2にやり

 横にいたチャムールがわたしに小さな声で聞いた。
「私もうかがってもいいのかしら?」
「ティリーさんのお隣にいるのは、チャムール・スレンドバーグさんかい?」

 チャムールが驚いている。
 「は、はい」

 レイターがにっこり笑って言った。
「俺、女性社員のことは全員覚えてるんだ。どうぞどうぞ。美人は大歓迎だぜ」
 お調子者がいつものように軽い返事をした。

 そして、土曜日。
 わたしはチャムールと一緒に駐機場のフェニックス号の前にいた。

「入るわよ」
「あいよ」
 インターフォンから間の抜けたレイターの声がしてドアが開いた。
 勝って知ったる船の中を案内していくとチャムールが驚いた声を出した。
「この船どうなってるの? 変よ」
「変よね」

 この船は操縦席とリビングダイニングが仕切りもなくくっついている。
 キッチンには火の出るコンロが設置されていて船というより家に近い。
「レイターが改築って言うか年中いじってるけど」
「そもそもの基本構造が違うわ。普通の設計理論じゃありえない」
 一級設計士であるチャムールの目から見ても変わった船なんだ。

 レイターの部屋の前に着いた。
 レイターが居間じゃなくて自分の部屋でレースを見ると言うのでちょっと心配だ。
「チャムール、驚かないでね」
 一応、びっくりさせないように声をかけた。 

n12ティリー振り向ポニーテール@

「レイター、入るわよ」
「どぉぞ」
 中から声がしてドアが開いた。

 相変わらずのレイターの部屋。
 足の踏み場がないほど散らかっている。ここの掃除だけはメインコンピューターのマザーも手をつけない。というかつけられない。
「チャムールさんのために掃除してたんだ」
 ソファーと椅子の上があいていた。いつもはソファーに座るのも一苦労だ。

「す、すごい」
 チャムールが目を回している。
「ごめんね」
 わたしが謝ってしまう。

「違うの、これも、これも・・・どうしてここに?」
 チャムールの目が釘付けになっているのは、ベッドの上に無造作に置かれている資料やディスクだった。

 宇宙船の設計図のように見える。

「この図面はうちの資料室にもないのよ。わたし、大学の研究室に高額使用料を支払って取り寄せたばかり」
「何だ、言ってくれれば貸したのに」
「ほんとですか!」
 チャムールが喜んだ声を出した。

「チャムール、気をつけた方がいいわよ。この人ぼったくるから」
「いやいや、チャムールさんにはただで貸すさ」
「ほんと、美人には甘いんだから」     (2)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」