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銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(2) 風の設計士団って何者よ?

<第九話のあらすじ>
 ティリーは同期の女性設計士のチャムールをレイターと引き合わせるためフェニックス号へ連れてきた。レイターの部屋はいつも通り散らかっていた。(1

 チャムールが今度はプラモデルに目を奪われている。
「これは・・・」
 この部屋にはいつも作りかけのプラモデルが転がっている。

「さすがチャムールさんお目が高い。翼の先にロルダ理論の改良加えてみたんだよね。スピード出るぜ」

n20レイターにやりネクタイなし@

「チャムールもプラモデルが好きなの?」
「ロルダ理論は学会で発表されたばかりの宙航力学よ。わたしもまだ原本を読み始めたところなの」
「今度金がたまったら、フェニックス号にも使おうと思ってんだ。さて、そろそろ番組が始まるからソファーに座って座って」

 レイターが操作すると部屋が暗くなって星が見え始めた。
 まるで宇宙空間に浮いているようだ。最新の4D映像システム。

 あれ? バージョンが上がっている。
「レイター、また買い換えたの?」
「前のバージョンのプログラムミスを指摘してやったら改良版を送ってきたんだ。こっちのが断然いいだろ」

 船がスタート地点に並び始めた。

 何だかいつもより迫力がある。改良版のせいだけじゃない。
「実況のアナウンサーさんが代わったの?」
 宇宙船レースはわたしも大好きでいつも見ているのだけど、どこか違う。S2だからだろうか。

「これ、いつも見てる番組と違うぜ。CMが入らない会員制の番組さ」
 確かにゲストも豪華で、解説も聞き応えがありそう。
「ふうん。わたしも会員になろうかな」
「ちなみに、月額百万リルだけどな」
 レイターがさらっと言った。

「えええええっ!」

n12ティリー正面ポニーテールあっけ

 わたしの月給の半年分だ。
「スチュワートが金持ち相手に新規事業始めたんだ」
 スチュワートさんはベンチャー企業の大物社長でレイターと仲がいい。

 先月、わたしはこの社長に新型船を売った。

n65スチュワートスーツ逆

「スチュワートさんはわたしからグラード買ってくれたのよ」
 グラードの設計者であるチャムールが笑顔を見せた。
「まあ、それは嬉しい」
 スチュワートさんの周りにいる人たちはわたしには想像がつかないセレブたちだ。月額百万リルでもビジネスとして成り立つのだろう。

「レイターは会費払ってるの?」
「払ってると思うかい?」
「思わない」
「ご名答。その代わり、モニターしてやってんだ」
「モニター?」
「番組を見て感想を伝えるのさ、ほら始まるぜ」

 レースがスタートした。
「ことしはお宅の船よくねぇよな」
 そう、このクラスではうちのチームは負けが続いている。

「レイターさんはどこのチームを応援してるんですか?」
 チャムールが聞いた。
「スチュワートんところさ。ワークスじゃねぇけど、よく頑張ってるだろ。今年は船もいいし」
 大金持ちのスチュワートさんはS1とS2チームのオーナーでもあるのだ。

 と、そのスチュワートのチームが小惑星帯で出遅れた。
「下手くそ! 旋回が緩すぎだぜ、もっと詰めろよ」
 画面を見ながら、レイターがレーサーにぶつぶつ文句を言っている。


 自称銀河一の操縦士である彼は、誰彼構わずレーサーを「へたくそ!」と罵倒し「自分ならもっと上手い」と豪語している。
 わたしの憧れ、クロノス社専務で『無敗の貴公子』エース・ギリアムの操縦にまでケチを付けるのには腹が立つけれど、その自惚れた様子を見るのは実は面白い。

 それに、レイターの解説は勉強になる。
 操縦テクニックの話にとどまらず、どこどこの会社が次はこんな船を作るらしい、とか、どこどこ工場のストライキが今回のレースに影響している、とか。
 彼が仕入れてくる情報は仕事でも役に立つのだ。

 でも、きょうはいつもと少し様子が違った。
 チャムールがいたから、船の技術的な話がメインだった。
 二人がエンジンの推力の話をしている、という程度はわかるのだけれど、専門的な話で内容はほとんど理解できない。

 ま、きょうはチャムールのために来たのだから仕方がない。      (3)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」