銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(4) 風の設計士団って何者よ?
<第九話のあらすじ>
チャムールは謎の宇宙船開発グループ『風の設計士団』についてレイターに質問した。レイターはそこで食事係のバイトをしていたという。二人はフェニックス号について議論を始めた。(1)~(3)
一般的に、わたしたちアンタレス人は数理能力が高いと言われている。でも、二人の会話にはまったくついていけない。
チャムールは大学院で博士号を取った後、研究職として残るかうちに就職するかで引っ張りあいがあったという逸材。
そして、最先端と言われるうちの技術設計部で一目を置かれているのだから、わたしが話についていけなくて当然だ。
わたしが驚いたのは、チャムールと対等に、いやチャムールをリードする形でレイターが話を進めていること。
ただの宇宙船お宅じゃない。
この部屋にあるものがほとんど宇宙船に関するものだということは知っていたけれど、おもちゃだと思っていたプラモデルもどうやら船を改造するための試作品らしい。
レイターがいつものおちゃらけたレイターと違う。
船の話だから表情が真剣だ。
真面目なレイターをみると時々わたしは錯覚してしまう。普段との落差で格好よく見えてしまうのだ。
厄病神に騙されてはいけない。
*
床に座った二人の話は終わりそうもなかった。
今度は宇宙船を防護するシールドと船体の強度について話をしている。
夕飯にマザーがサンドイッチとスープを出してくれた。
調理師免許を持つレイターがセッティングしているためか、下手なお店で食べるよりおいしい。中でもこのカツサンドは絶品だ。
「ティリーさんとチャムールさん、明日の予定は?」
レイターが珍しく気を使って聞いてくれた。
「あのぉ、わたしは休みですから、もう少し続けていいですか?」
チャムールはまだ話を続けたいらしい。それならわたしもつきあおう。
「別にわたしも予定はないから」
二人はサンドイッチをつまみながら白熱した議論を展開している。よく話すことがあるなあ。感心してしまう。
わたしはその横で読みたかった新刊の小説を読み始めた。
フェニックス号は高額な一括データベース契約をしていて、読みたい本が何でもすぐに読める。
読書が趣味のわたしにとってこの船は時間つぶしには困らない。
*
小説を一冊読み終えた。
時計を見ると深夜を回ってる。一体二人はいつまで話を続けるつもりなのか。
「ティリーさん、部屋で寝ていいぞ」
「ありがと」
そう答えたものの、動くのもめんどくさい。ソファーでうとうとしているうちに眠ってしまった。
*
ちょっと、うとうとするつもりだったのだけれど気がつくともう朝だった。窓の外が明るい。
信じられないことに、二人は床に座り込んだまままだやっていた。
しかもシールドの話。
一晩中、十二時間以上この議題で議論をしていことになる。
「じゃあ常数を変換すれば対応できるじゃないですか」
「電磁波帯を飛ぶときには、それじゃ無理だってさっき言っただろ、関数自体の置き換えも考えないと」
「でも、もう関数は出尽くしてます」
「そんなこたねぇよ。素材の次元係数をかえればあと百通りはいける」
「そんな・・・」
チャムールが力なく床に倒れ込んだ。
「チャムール、大丈夫?」
あわてて助け起こす。
「百通りっつったって条件で排除できるからあと三十ぐらいか。五時間あれば解にたどり着くぜ」
チャムールは首を横に振った。
「あした計算します」
もうこれ以上は無理だ。
「ここまできたらやっちまった方がいいんだよな。後は俺がやっとくよ。だがな、チャムールさん。あんた『風の設計士団』に入りたいんなら体力を付けた方がいいぜ」
チャムールびくっとして顔を上げた。
「どうしてそれを・・・」
そうか、チャムールは『風の設計士団』のことが知りたくてレイターに会おうとした。
『風の設計士団』への転職を考えていたということか。
グラードの販売不振の責任がチャムールに押しつけられていた。それで会社に嫌気がさしたに違いない。
「『風の設計士団』の奴らはずっと議論し続けてるんだ。二十四時間、七十二時間、一週間ってな。老師が脳がつぶれるまで考えろ、知力は体力だってうるせぇのよ」
「あなたはその議論に加わっていたの?」
「俺は食事係だったからよく中抜けしたけどな。じいさんは食事にうるさくてさ。さてと、朝飯で脳に栄養補給しようぜ」 (5)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」