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銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(5)

銀河フェニックス物語 総目次
裏将軍編のマガジン
・最後の最後は逃げるが勝ち(1)(2)(3)(4

 俺のギャラクシー号は結構目立つ。
 裏将軍の突風教習船を載せていることは、バトル会場に来るギャラリーにとっては常識だ。

 会場のウエスタン帯に到着すると、ギャラリーにまぎれた撮影部隊が「裏将軍到着!」と情報ネットのギャラクシー・フェニックス公式チャンネルに動画をアップ始めた。

 東と西の合戦。
 銀河連邦の飛ばし屋が統一されるという天下分け目の戦いだ。
 きょうの会場は速度制限がかかっていない区域だから、警察も手が出せない。
 飛ばし屋たちが公道でスピード違反したら即捕まえようと、覆面パト機がいたるところにスタンバイしていた。

 勝負のルールは簡単だ。
 スタート地点から二機が同時にスタートし、決められたコース座標内の空間を通って小惑星帯を一周する。先にゴールした方が勝ち。
 おのずと最短ルートは決まってくる。
 コース座標外のギリギリのところにギャラリーや撮影部隊が密集して観戦している。

 初戦は三将である俺の出番だ。

アレグロ上目真面目

 レイターと御台は最短ルートを選択したが、俺は、空間気流の影響を受けにくい少し遠回りとなるルートを選んだ。間欠泉小惑星が噴出する気体の量や勢いはくるくる変わる。操縦を誤る恐れがある。
 予測不能な慣れない土地で、相手と同じ土俵に乗る必要はない。逃げるが勝ち、という作戦だ。

 だが、この作戦は裏目に出た。
 老舗ウエスタンクロスの三将は流石だった。地元の空間気流を知り尽くしている。相手は間欠泉小惑星のすぐ脇を通る最短ルートを、操縦ミスもせず突き進んだ。俺は成す術なく敗退した。
 とはいえ、これは想定の範囲内だ。

 俺のバトル映像を見て御台とレイターがその場で分析する。
 物量に物を言わせた撮影部隊が、切れ目なくコースを映し公式チャンネルにアップしている。現時点の空間気流の状態をこれで読み取る。

「情報ありがとう。アレグロの仇はあたしが討つわ」
 黒のボディに深紅のバラが描かれた御台の機体がスタート地点に立つ。「御台所登場!」と歓声のコメントが次々とあがった。

 副将の御台所は慣れない空間気流を物ともせず、ウエスタンクロスの三将と副将を次々と退けた。

 公式チャンネルの視聴者から御台所に投げ銭が入る。

 御台所が、西の大将ノーザンダを引きずり出した。
 ノーザンダの青い船が登場すると地元ギャラリーが大きな歓声を上げた。

ノーザンダ前目逆

 西の大将と東の副将戦に、ライブ映像の視聴者数が跳ね上がる。

 ノーザンダと御台所の船が並んでスタートした。
 流石、西の大将だ。ウエスタン帯を飛ばし込んでいることが、一目でわかる。
 老舗の誇り。おそらくチームの先代たちがバックでこの戦いを見ている。

 ノーザンダは下馬評通りに強かった。 
 途中、御台がリードしたが、粘り強くノーザンダが追い抜き、最後は差を広げてゴールした。

 俺の予想通りだ。西の大将は裏将軍でなければ倒せない。

 ヘルメットを取った御台所が、悔しそうな顔で自撮りのコメントをギャラクシー・フェニックスの公式チャンネルに投稿する。

振り向き悔しい

「負けたのは悔しいわ。けれど、全力を出した結果だから仕方ない。西の大将ノーザンダは強かった。あとは裏将軍にお任せするわ」

 このところ、ヘレンは一段と綺麗になった。コメントが情報ネット上に次々と拡散されていく。


 いよいよ、裏将軍の番だ。
「じゃ、行ってくる」
 レイターは落ち着いてギャラクシー号から出て行った。

18クロノス正面18歳@3

 突風教習船がギャラリーの前に姿を現す。

 大一番の大将戦。「裏将軍降臨!」ライブ視聴者のカウントが一気に桁を塗り替えていく。
 この対戦カードについては、飛ばし屋だけでなく一般人の流入も意識して布石を打っておいた。
 飛ばし屋の銀河統一、すごいものが見られる、と巷で噂になっている。

 このバトルを見るには、うちのギャラクシー・フェニックスの公式チャンネルが一番いい。撮影部隊にはプロ顔負けの機材が与えてある。
 銀河警察内の視聴数は相当なものに違いない。ありがたいことだ。収益を運営費に回させていただこう。

 裏将軍が座っているのが、いつもの右操縦席ではない。
 これがさらに観客を呼び込んだ。「左教官席の封印解除」がトレンドワードに上り、赤い不死鳥が描かれたフルフェイスのメットをかぶったレイターの映像が情報ネットに飛び交った。     (6)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」