銀河フェニックス物語<出会い編> 第七話(9) 真っ赤な魔法使いはパズルもお得意
アラマットか、ハールか。
二隻の船の間に立つジョンソンさんをじっと見つめた。負けるとわかっていても、やっぱり緊張する。
隣の魔法使いは余裕の表情を見せている。
ジョンソンさんが口を開いた。
「じゃあ、家でパズル大会をしよう。その結果を見て決めるよ」
魔法使いが驚いて息を呑んだのがわかった。
この場でハールの契約が取れると思っていたのだろう。
でも、すぐに彼は切り替え、笑顔で応じた。
「わかりました、ジョンソンさん。ギーラル社の英知が結集したパズルをお見せしますよ」
そうか、パズル好きのジョンソンさんは、パズル大会がやりたいんだ。
ハールの購入を伝えるのはパズル大会の後でいいと思っているに違いない。
わたしだって折角アーサーさんにパズルを考えてもらったのだ。
この茶番劇に乗ろう。
「クロノスの調査部がとっておきの問題を作りました。作成者も呼んでおりますので、ぜひ、お試しください」
「それは楽しみだ」
ジョンソンさんは本当にうれしそうな顔でわたしたちを家へと案内した。
アーサーさんは度の強い眼鏡にマスク、野暮ったいよれた白衣という変装で、わたしたちの後ろからついてきた。
冴えない調査部員、アーサー・ブラウン。
というのがレイターが書いたシナリオだった。
*
「パズル大会のルールを説明するよ」
ジョンソンさんが上機嫌でわたしたちに話しかけた。
「君たちが持ってきたパズルを僕が解く。そして、君たちも問題を交換して解きあう」
予想通りだ。
レイターの言う通りアーサーさんに来てもらってよかった。
「それから僕も問題を作っておいたからこれも合わせて、全員二問ずつ解いて、速く正解したチームに得点が入る。あとは審査員の僕がパズルの美しさを芸術点として追加する」
芸術点。
随分と主観的な勝負だ。いくらでもハールの勝ちを宣言できる。
魔法使いもそのことに気付いたようだ。わたしの顔を見てニヤリと笑った。
そして、魔法使いはポケッタブルコンピューターを取り出した。
「すみません、ジョンソンさん。僕は、ジョンソンさんのようにパズルに精通していないんです。そこで、このコンピューターを使わせてもらっていいですか?」
あれは研究所のスペシャルコンピューターとつながっているに違いない。
「インチキじゃねぇかよ」
レイターが文句を言った。
こちらも天才のアーサーさんを連れてきていてインチキみたいなものだけれど。
ジョンソンさんが答えた。
「どうぞ、ケバカーンさん、使ってください。クロノスさんも、コンピューター使っていいですよ。僕は僕の脳で解きますけどコンピューターの知能と戦うのもまた、楽しいんです」
魔法使いは真っ赤な頭を下げた。
「ありがとうございます。難問パズルを相当数ラーニングさせましたので、負けないとは思いますが」
自信たっぷりにわたしを見つめた。
*
ジョンソンさんがそれぞれの問題をプリントアウトし、見えないように裏返して二枚ずつわたしたちの前においた。
そして、スタートを宣言した。
「では、始めましょう」
それを合図に、三者一斉に紙をひっくり返した。
「できました」
と言いながらアーサーさんが二枚の解答を一気に書き上げた。
「え?」
ジョンソンさんが驚いている。
魔法使いはまだ、問題をコンピューターに読み込ませているところだった。
ジョンソンさんは問題を解くのも忘れてアーサーさんの解答を見に来た。
急いで書いたのに美しい、しっかりとした文字。
「素晴らしい、少なくとも、僕の作った問題は正解だ。ケバカーンさんが作ったパズルの方もこれは正解だなあ」
魔法使いがあわてて叫んだ。
「こちらもできました!」 (10)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」