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銀河フェニックス物語 <会社員編> 起業家の夢は宇宙に輝く(1)

 これは、宇宙船メーカークロノスに勤めていた十八歳のレイターとS1チームオーナーのスチュワートが出会った頃の物語です
銀河フェニックス物語 総目次
<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」①  

 レイターと初めて会ったのは、宇宙船業界の関係者が集まる立食パーティーだった。

 背の高いあいつは、食べ物の前に陣取って、気持ちいいほどガツガツと食べていた。食いっぱぐれないように、慌てて食べているようにも見えた。

 このパーティーは食べることが目的ではない。ビジネスの話をするためのものだ。
 場所と目的を履き違えている奴がいるな、と思った時、そいつは口をもぐもぐさせながら近づいてきた。

 俺はライネッツ・スチュワート。

n65スチュワートスーツ色

 学生時代に立ち上げた情報ベンチャー企業が大当たりした。二十代で好きだった宇宙船レースS1のプライベーターチームのオーナーになった。

 職業柄か人のことを観察する癖がある。
 ネクタイをゆるめただらけた格好。だが、姿勢は正しい。少年のような顔立ち、まだ若い。

 そいつは馴れ馴れしく俺に声をかけてきた。
「あんたんところの船、オイル変えただろ。馴染みが悪いんだよ」

18クロノス正面18歳@3ニヤリゆるスーツ

 S1のレース機の話か。
 最近俺のチームは予選を突破するようになり、少しずつ認知されてきた。

 この前のレースで新しいオイルに変えた。
 だがそのことは公表していない。まあ、このパーティは宇宙船業界が集まっているから、情報が洩れていても不思議ではない。

「どこで聞いた?」
「見りゃわかるさ。加速ん時に引っ掛かってるだろ。添加剤のカルボナ使えよ」
 オイル用添加剤のカルボナか。検討項目として上がってはいたが、効果に期待できるか確信がなく採用には至っていない。
「あんたんところのエンジンにはあれが一番だ」

「お前は何者だ?」
「銀河一の操縦士、レイター・フェニックスさ。あんたんところのチームを応援してる」
「俺が聞きたいのは、そういう話ではなくどこに所属しているかだ」
 そう言いながら胸のネームプレートを見た。クロノス社の営業マンか。

「お前変わってるな、カルボナ売ってもクロノスは儲からんぞ」
「うちで扱ってるハイパーボーじゃダメだ」
 自社製品じゃないものを勧めるのには裏があるかも知れん。
「どうしてだ?」
「あん? 粘性が合わねぇじゃん。ハイパーボーは長く乗る船には費用対効果がいいが、一発勝負で速度を求めるならカルボナだ」
 ふむ。一理ある。
 この若者はちょっと変わっているが惹きつけるものがある。何より船が好きだという気持ちが伝わってくる。

 と、その時、
「社長、オリオンの専務がお越しです」

メリーアン パーティ色大

 赤いドレスを着た秘書のメリーアンが呼びに来た。彼ともう少し話をしたいと思ったが仕事だ。

「アドバイスありがたく受け取っておくよ」
と挨拶して別れた。

「幸運を祈るぜ」
 あいつは手を振った。
 俺は取引先の元へあいさつに向かった。

 あの若者に言われたオイルのことが、頭にこびりついている。

 パーティーが終わると、すぐにチーフメカニックのアラン・ガランに連絡を入れた。
「オイルの検討状況はどうなっている?」
「添加剤を導入することまでは決めましたが、ハイパーボーとカルボナのどちらにするか迷っているところです」

アラン・ガラン@2やや口逆

 俺は、あの風変わりな若者の言うことを信じてみようと思った。
「カルボナにしろ」
「わかりました」
 オーナーの俺が言えば決定だ。     (2)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」