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銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(最終回) 風の設計士団って何者よ?

<第九話のあらすじ>
 宇宙船の防護シールドについて天才軍師のアーサーがあっという間に方程式を解いてしまった。チャムールは転職せずクロノスで『銀河一の設計士』を目指すことにした。()~() 

 あれから三ヶ月『グラード』は人気船種になっていた。

 レイターの販売アイデアを提案し、一ヶ月お試しレンタル制を始めてみたら、そのまま買い取る人が続出したのだ。
 口コミでも広がり、品薄になると今度は急に予約が入り始めた。

 今月の部門別販売台数では首位を取った。
 チャムールは若き女性開発者としてメディアに引っ張りだこだ。

 そしてわたしも部長から特別手当として金一封をもらった。
 これは、間違いなくレイターのおかげだ。食事に誘ってみよう。

 待ち合わせたレストランの前でレイターが不満げな声をあげた。
「ティリーさんと二人きりじゃねぇのかよ」

n201レイター不機嫌逆

 レイターは恨めしそうにアーサーさんをにらんでいた。

 レイターを誘ったあと、チャムールとアーサーさんに声をかけることを思いついたのだ。

 四人でテーブルを囲みわたしが乾杯の音頭を取った。
「グラードの月間一位を祝して、乾杯! チャムール、おめでとう」

t94s乾杯逆@

「ありがとう。私、拙速に会社を辞めなくてよかった。レイターさんのおかげです」
 チャムールは嬉しそうだった。
「だから、きょうは私に払わさせて」
 というチャムールの申し出をわたしは断った。

「営業で特別手当が出たの。だから心配しないで」

n12ティリー正面大笑いカーデ

 チャムールが困った顔をした。
「半分出させてほしいのよ。実はシールド理論の特許料がもう入ってきたの。『風の設計士団』があの解を使った船を設計したんですって」
「あいつらハイエナみたいに最新技術探してるからな」

 アーサーさんがチャムールに礼を伝えた。
「連邦軍でも採用が決まりましたよ。電磁波帯における安全性が向上するので助かります」
「殿下の計算のおかげです。ありがとうございました」
 チャムールは恥ずかしそうに頭を下げた。

「そうだ、俺からも高価なプレゼントがあるぜ」
 とレイター。
「スチュワートのやってるレース番組さ、女性モニターを入れた方がいいって提案したらあいつ乗ってきたんだ。今週中にティリーさんとチャムールさんのところにモニターのパスワードが届くはずだから、それ入力すれば百万リルがただで見られるぜ」

 番組が無料で見られるのはうれしいけれど・・・。

「モニターってリポートを毎回書かなくちゃいけないのかしら」
 レイターのような細かいリポートを書ける気がしない。
「大丈夫、ティリーさんは俺と一緒に番組を見ればいいのさ。そしたら適当に書いておくから。俺とデートってことで」

「デートじゃありません。それに、フェニックス号で見るんじゃモニター契約してもしなくても一緒じゃないのよ。そうだ、チャムール、一緒に見ようよ。チャムールはリポート書くの得意だし」
「いいわね。それから・・・」
 チャムールはアーサーさんの方を見た。
「殿下も一緒にいかがですか?」
「喜んで」

s40 アーサー横顔制服とチャムール

「ちょっと待て、アーサー、あんたレースに興味なんてねぇだろが」
「わたしは森羅万象、すべての物事に興味がある」
「ったく何だよ、俺だけ仲間外れにする気かぁ!」
 レイターの嘆きがおかしくて、みんなで笑った。

 わたしとレイターが馬鹿な話をしている横でチャムールとアーサーさんは大人の会話を楽しんでいた。

 とっても楽しい会食だった。

 そして、次のS1レース。
 結局わたしはいつもと同じくフェニックス号で観ることになった。

「スチュワートに言わせるとベンチャー企業ってのは、柔軟さが売りなんだとさ」
 月額百万リルの宇宙船レース番組はその後あっと言う間に終了してしまったのだ。
「メイン画面でスチュワートの船ばっか映すから苦情が来てたらしい」
 フェニックス号の4D映像システムは多チャンネル画面だから気が付かなかった。

「ま、いつも通りティリーさんとデートってことで」
 はっきり言っておかなくては。
「デートじゃありません。わたしの理想は『無敗の貴公子』エース・ギリアムです。レイター、あなたとは月とすっぽんです」
「そうだよな」
 珍しい、レイターが認めている。
「俺が月だろ」
「は? レイターがすっぽんに決まってるでしょ!!」
 わたしは大声で叫んだ。

 そして思った。
 宇宙船への執念、食いついたら離れないしつこさ。まさに、すっぽんだわ、って。    (おしまい)
第十話「愛しい人が待つ場所で」へ続く
 

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」