銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(最終回) 風の設計士団って何者よ?
<第九話のあらすじ>
宇宙船の防護シールドについて天才軍師のアーサーがあっという間に方程式を解いてしまった。チャムールは転職せずクロノスで『銀河一の設計士』を目指すことにした。(1)~(6)
あれから三ヶ月『グラード』は人気船種になっていた。
レイターの販売アイデアを提案し、一ヶ月お試しレンタル制を始めてみたら、そのまま買い取る人が続出したのだ。
口コミでも広がり、品薄になると今度は急に予約が入り始めた。
今月の部門別販売台数では首位を取った。
チャムールは若き女性開発者としてメディアに引っ張りだこだ。
そしてわたしも部長から特別手当として金一封をもらった。
これは、間違いなくレイターのおかげだ。食事に誘ってみよう。
*
待ち合わせたレストランの前でレイターが不満げな声をあげた。
「ティリーさんと二人きりじゃねぇのかよ」
レイターは恨めしそうにアーサーさんをにらんでいた。
レイターを誘ったあと、チャムールとアーサーさんに声をかけることを思いついたのだ。
四人でテーブルを囲みわたしが乾杯の音頭を取った。
「グラードの月間一位を祝して、乾杯! チャムール、おめでとう」
「ありがとう。私、拙速に会社を辞めなくてよかった。レイターさんのおかげです」
チャムールは嬉しそうだった。
「だから、きょうは私に払わさせて」
というチャムールの申し出をわたしは断った。
「営業で特別手当が出たの。だから心配しないで」
チャムールが困った顔をした。
「半分出させてほしいのよ。実はシールド理論の特許料がもう入ってきたの。『風の設計士団』があの解を使った船を設計したんですって」
「あいつらハイエナみたいに最新技術探してるからな」
アーサーさんがチャムールに礼を伝えた。
「連邦軍でも採用が決まりましたよ。電磁波帯における安全性が向上するので助かります」
「殿下の計算のおかげです。ありがとうございました」
チャムールは恥ずかしそうに頭を下げた。
「そうだ、俺からも高価なプレゼントがあるぜ」
とレイター。
「スチュワートのやってるレース番組さ、女性モニターを入れた方がいいって提案したらあいつ乗ってきたんだ。今週中にティリーさんとチャムールさんのところにモニターのパスワードが届くはずだから、それ入力すれば百万リルがただで見られるぜ」
番組が無料で見られるのはうれしいけれど・・・。
「モニターってリポートを毎回書かなくちゃいけないのかしら」
レイターのような細かいリポートを書ける気がしない。
「大丈夫、ティリーさんは俺と一緒に番組を見ればいいのさ。そしたら適当に書いておくから。俺とデートってことで」
「デートじゃありません。それに、フェニックス号で見るんじゃモニター契約してもしなくても一緒じゃないのよ。そうだ、チャムール、一緒に見ようよ。チャムールはリポート書くの得意だし」
「いいわね。それから・・・」
チャムールはアーサーさんの方を見た。
「殿下も一緒にいかがですか?」
「喜んで」
「ちょっと待て、アーサー、あんたレースに興味なんてねぇだろが」
「わたしは森羅万象、すべての物事に興味がある」
「ったく何だよ、俺だけ仲間外れにする気かぁ!」
レイターの嘆きがおかしくて、みんなで笑った。
わたしとレイターが馬鹿な話をしている横でチャムールとアーサーさんは大人の会話を楽しんでいた。
とっても楽しい会食だった。
*
そして、次のS1レース。
結局わたしはいつもと同じくフェニックス号で観ることになった。
「スチュワートに言わせるとベンチャー企業ってのは、柔軟さが売りなんだとさ」
月額百万リルの宇宙船レース番組はその後あっと言う間に終了してしまったのだ。
「メイン画面でスチュワートの船ばっか映すから苦情が来てたらしい」
フェニックス号の4D映像システムは多チャンネル画面だから気が付かなかった。
「ま、いつも通りティリーさんとデートってことで」
はっきり言っておかなくては。
「デートじゃありません。わたしの理想は『無敗の貴公子』エース・ギリアムです。レイター、あなたとは月とすっぽんです」
「そうだよな」
珍しい、レイターが認めている。
「俺が月だろ」
「は? レイターがすっぽんに決まってるでしょ!!」
わたしは大声で叫んだ。
そして思った。
宇宙船への執念、食いついたら離れないしつこさ。まさに、すっぽんだわ、って。 (おしまい)
第十話「愛しい人が待つ場所で」へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」