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エイプリルフールの恋と憂鬱

もう10年ほど前の話だが、「エイプリルフールは、厳密には午前中までしか嘘をついてはいけない」という嘘を、SNSで呟いたことがあった。しかし先程ネットで調べたら、どうやらそれが、全くの嘘ではない、という事が書かれていた。

本当らしい嘘を必死につこうとして、どうでもいい「ほんとう」にたどり着いてしまったようだ。

しかし、そもそもなぜ、そんな嘘をつこうと思ったかと言うと、

みち夫「俺、お前のこと好きだわ」

よし子「え? あ、今日、エイプリルフールだからか!笑 もう!騙されないからね、わたしは」

みち夫「時計見てみ?」

よし子「え、、0時過ぎてる、、、?」

みち夫「嘘じゃねーよ」

よし子「まじ? ・・・私も、好きです」

みたいな痛々しいやりとりを、阻止したいと、常々思っているからである。

このような事を言うと、「午前中までにしたら、昼の12時に同じような事をする人が現れる」と言われるかもしれないが、白昼堂々こんな小恥ずかしいやりとりができる人間は、エイプリルフールが来る前に、フラッシュモブを踊りながら街じゅうをパレードして、警察に許可なしのデモ隊だと思われて、既に連行されているはずであるので、その心配はないのだ。

そもそも一般的に、告白は夜にするのが良いと思われている。実際に、深夜の0時から5時の間に告白をすると成就する可能性が高いという統計もあるらしい。(0時から5時の間に、連絡を取り合ったり、会ったりできる関係性である、ということが前提にあるからではないかとも思う)

わたしが腑に落ちないのは、「時計見てみ?」を言いたいがために、0時を超えてから告白をしようというキザださい魂胆が、「俺、お前のこと好きだわ」の前後、そしてその最中にも渦巻いていることなのだ。なんならみち夫は、数日前からエイプリルフールが終わった直後に告白しよう、という考えを巡らせていた可能性もある。つまり、この時のみち夫には、かなり心に余裕があり、冷静にも関わらず、こんな痛い計画を遂行しているということである。

ロマンチストの私は、告白の際は、震えが伝わるくらいの緊張感か、なんとなくムーディな雰囲気を漂わせろよ、と思っている。
仮にみち夫が、そのような雰囲気のなかでこの言葉を発し、その上で、よし子が嘘だと茶化してきたのだとしたら、告白は成功しないか、みち夫の思惑を完全に理解している「時計見てみ?」待ちの女である。

つまり、このやりとりが成り立つということが、私の生きている世界線では起こり得ないのである。

と、ここまで想像をしてみたが、ほんとうに、このような状況など、世界のどこにも起きていないのかもしれない。

小学校2年生のときクラスで、サンタクロースを信じているという女の子に、男の子が、「サンタクロースなんていないんだよ!」と必死に訴えていた。「いるよ!どうしてそんなこというの!」と女の子は嫌な顔をした。次第に、サンタクロースを信じる派閥と信じない派閥で言い争いになった。当時の私といえば、彼らが、自分の信じているものを、表立った議題にして論争する勇気に驚きながらも、ただ傍観することしかできなかった。

あれから大人になって、騙されることにも慣れた。信じる勇気を、持てるようになったのかもしれない。
だから、みち夫とよし子のやりとりは、私が取り締まらない限り存在し、私はそれに嫌悪感を抱くのだ。それが実際には架空のやりとりだろうが、構わないのである。


あのとき、女の子がサンタクロースを信じている、ということを信じている男の子のほうが、純粋だったのかもしれない。

けれど、そんなことには、気付かないように生きることとしよう。
少なくとも、今日はまだ、エイプリルフールなのだから。

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