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わたしはまだやわらかな幼虫

今からちょうど1年ほど前に、私は、あることに気付いた。それは、年々、明らかに時の流れが早まっている、ということである。しかも、これはどうやら、私だけが感じていることではないようなのである。

これについては以前記事でも書いたことがあるのだが、この現象には「ジャネーの法則」という名前までついている。


もしかしたら、今この記事を読んで、初めてジャネーの法則を知った、という人もいたかもしれない。今までこの法則を知らなかった人は、このまま1年がだんだん短くなっていって、明日には来年がきて、明後日にはおばあちゃんになって、明々後日には死ぬのかも、と気が気でなかっただろう。そんな、えも言われぬ恐怖と闘っていたあなたには、これを読んで安心して欲しい。何故なら、あなただけでなく、明日には誰にでも来年がくるし、明後日にはみんなおばあちゃんになって、明々後日には人類は滅亡するからである。
ジャネーの法則というのは、そういうものなのだ(多分違う)。



ところで、数年前の11月、信頼できる友人が、
「ハロウィンが終わったら、クリスマスソングを聴いて、気分を盛り上げる」と言っていた。


私はそれを、とても良いアイディアだ、と思った。
ふつう、クリスマスは、12月25日の0:00に始まり、12月26日の0:00を迎える瞬間に終わる。子どもの頃は、12月に突入してからクリスマスまでの期間など、砂漠のオアシスのように遠く、12月24日ですら、その夜になるまでが永遠のように感じられた。それが今は、朝起きて顔を洗っている間にも、実は刻々とクリスマスが迫りきていて、全く気付かないうちに12月24日が訪れ、クリスマス特有の電飾がフラッシュのように一瞬だけ光った瞬間に、すでに年末になっているのだ。その様子はさながら、バックトゥーザ・フューチャーである。


ここで問題なのは、いつの間にか過ぎている、というところなのである。そう思うと、子どもの頃は、12月に入るともっとクリスマスを意識していた。つまり、「もうすぐクリスマスだ。来るぞ、来るぞ」と、待ちわびる時間が発生していたのだ。そして恐らく、この時間こそが、結果的にクリスマスを長く楽しむことにつながっていたのである。

そこで、友人のクリスマスソング作戦である。


11月からクリスマスソングを聴き続け、完全に煽りきった状態でクリスマスを迎えるのである。実は、私は去年、この方法を実践し、実際にクリスマスを普段より長く楽しむことができたのだ。



ところで、この2月から東京に住むことになった。

人生において、地元から東京に出てくる、なんていうのは、かなりの転機である。これは、人生レベルで大切にしなければならないひとときのような気がする。ここをおざなりにしてしまったら、地元から東京へ出てきたことを忘れ、いつから東京に住んでいるかわからず混同し、なんやかんやで時の流れを把握できなくなり、街じゅうの人に、「今って西暦何年ですか?」などと聞いてまわり、最終的に、未来から来た時空警察に誤認逮捕され、未来の拷問を受けることになるのだ。


私は未来の拷問を回避するため、とにかく、東京と名のつく曲を聴いて、少しでも長く、強く、この記憶を鮮明なものにすることにした。


東京と名のつく名曲は多い。他の地名が入る曲など、「地元うぇ〜い」みたいな曲がほとんどなのに、東京の曲はいつもおしゃれである。

くるり、チャットモンチー、BUMP OF CHICKEN、きのこ帝国、ヤングスキニー、ドラマストア、TOM-ATOM、乃紫、奇妙礼太郎、Mr.Children、、
今はこれらを順番に聞いて、士気を高めている。



30歳を超えて、もう都会に果てしない希望など抱いてはいないし、地元を捨てたわけでもない。それでも、この、蜂の巣のような東京で、あまいあまい夢を見ている。



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