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SUMIYU
2020年3月29日 17:14
~前~† そして翌朝。 暴風雨は夜中のうちにすっかり静まり、白々しいまでに輝く日が残った雲を押しのけて青空を登っていた。 湿った南風が生臭いにおいを運んでいる。宿を出て街路を行くと、ちぎられた枝葉やゴミが散乱し、数人の子供たちが枝の品質を競って走り回っていた。 中央広場を訪れると、ガイオとカリスはすでに着いていて、雑貨の露店を物色していた。 私も合流し、しばらくしてリドレイもやっ
2020年3月29日 02:22
~前~† 「呪われた場所と聞くけど、町はずいぶんと小ぎれいだね」 女は淡々とそうつぶやいて、拭き布で体をぬぐうと給仕の娘に礼を言った。 彼女は我々を含め酒場にたむろする人々をぐるっと見回すと、床を入念に踏みしめるかのような足取りでカウンターへ向かった。 クロークや手袋を物干し棒に掛け、親父に酒をもらう。 彼女が座る場所を決めるより早く、ガイオがすかさず声をかけた。 「おうい、
2020年3月22日 23:30
~前~† 風雨はあっという間に強まった。 私たちが酒場に逃げ込むころには大粒の雨滴が滝のように注ぐ有様で、皆で顔を拭いながらドアを入った。 給仕の娘が私たちに気づき、くたびれた拭き布を渡してくれた。 暖炉の傍らにはすでに物干し棒が据えられており、衣服がいくつも掛けられている。 私たちもぐっしょり濡れた外套やクロークをそこに預け、ため息をつきながら手近のテーブルを占拠した。 3
2020年3月22日 01:40
~前~† 「あのダンジョンだが、どうやらティロム神殿そのものらしい。」 リドレイの言葉に、私とガイオは意表を突かれた。 空を見上げれば灰色の雲は朝よりも重く垂れこみ、せわしない南風が湿気をはらんで外套をあおる。 リインの代官の館に向かうティラの巡礼者たちを見送ると、私たちは広場を後にし、城壁にそって町の外周をゆっくり歩きながらリドレイの不思議な話に耳を傾けた。† 彼の考え
2020年3月18日 23:27
~前~† 「巡礼者だ! 巡礼者たちが着いたぞ!」 衛兵の叫びに呼応して、町は騒然となった。 「巡礼者だ!」 「巡礼者が来たってよ!」 家々や商店のドアが開き、慌ただしく駆けだしてくる者もいる。 「どこの巡礼者だ?」 問う声に、衛兵が答える。 「ティラだ! ティラの者たちだ!」 南の鉄門はすでに開かれ、町民や旅商人たちが門のまわりに集まっている。 私たちも南門
2020年3月14日 22:26
† 「暗闇の大戦」においてエンシ神の陣営についた神々のうち、最も謎めいた1柱がオベタルであろう。 オベタルは石、金属、宝石を司る洞窟の神として知られるが、その言動については神話や物語の類にほとんど詳しい記述が無く、わずかな記録も一貫性に乏しくその実態は掴みどころがない。 オベタルは、暗闇の陣営として立ち上がったエンシ、イェンマと並び神々の父アーマバの子らの1柱である。 神話の描写に
2020年3月14日 13:05
~前~† 翌朝、目ざめた私を迎えたのはどんよりとくすんだ灰色の空と、抜けきらぬ酒の酔いであった。 宿の主人に湯をもらって飲み、軽く身支度をして街路に出る。 せっかくなのでスケルトンから剥ぎ取ったツバ無し帽をかぶってみたが、使い古された厚手の革外套とは不釣り合いに思えて、少し可笑しかった。 こうして町中で行き交う人々を眺めていると、ダンジョンに潜り危険をかいくぐった時間がまるで夢の
2020年3月12日 00:18
~前~† 日が沈み、山影と空が溶けあいはじめても、このリインの町はすぐには眠らない。 まだ店じまいをしない市場の店主たちは、商売はこれからとばかりに新しい品物を運び入れている。 野営のようにかがり火が焚かれ、人々の赤い顔が闇の中にゆらゆらと浮いていた。 私はといえば、月と夜風に追われるようにして宵の憩いを目ざし歩いていた。 ランプに照らされた「樫の盾」の看板が徐々に見えてくる。酒
2020年3月3日 00:01
~前~† 私が工房を出た時、空はすでに暮れかかり、静かに燃える最後の陽光が街ゆく人々の顔を照らしていた。 街路を吹き抜ける風は冷たく、私は外套をしっかりと肩にかけ直した。 外は冷たかったが、私の体は熱かった。 腰に吊った短剣は鞘の中で脈打つかのように揺らぎ、老鍛冶の振り下ろした槌の音が今も響くように感じられた。† 「我が主は慈悲深い!」 老いた盲目の鍛冶屋は何度もそう叫ん