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【ダンジョン潜り:追補編】 ~鉱道の魔神オベタル~

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 「暗闇の大戦」においてエンシ神の陣営についた神々のうち、最も謎めいた1柱がオベタルであろう。
 オベタルは石、金属、宝石を司る洞窟の神として知られるが、その言動については神話や物語の類にほとんど詳しい記述が無く、わずかな記録も一貫性に乏しくその実態は掴みどころがない。

 オベタルは、暗闇の陣営として立ち上がったエンシ、イェンマと並び神々の父アーマバの子らの1柱である。
 神話の描写において、エンシが完全なる闇をまとった妖術師を化身として、またイェンマが嵐そのものを剣として帯びる巨人を化身として描かれるのに対し、オベタルの顕現に関する記述は様々である。

 ゴブリンの間に伝わる原始の物語では、オベタルは目をもたない貴婦人の姿で洞窟の奥底に潜み、ゴブリンたちに知恵と技術を授けたとされている。
 ヤデム神の鍛冶の技と、オベタルの産する鉄、錫、金、銀、銅、宝石、大理石、燃える石、鉄の水によって、ゴブリンたちは様々な物品や装飾品を作り出し、非常に豊かになった。

 後にエンシがアーマバの子らに反旗を翻すと、エンシの側にあるオベタルの甘言に唆され多くのゴブリンたちが彼女の旗下に降ったと言われている。

 大戦に関する神話の記述では、オベタルは自らの力によって非常に強力な武具を作り出し、それをエンシをはじめとした神々に、またエルフたちに率いられた地の子らの軍団に惜しみなく与えている。
 そこでは彼女は数え切れぬほど多くの手足を持つ鋼のムカデとして描かれ、その致死的な威力で竜をすら殺したと記されている。背の鎧は宝石であり、燃える石で作られた剣を持ったその腕は切り落とされても新たに生え出たとされる。

 エンシの軍勢が劣勢となり、敵であるアーマバの子らの兵たちに巣の奥底まで踏み込まれたオベタルは最後の力を振り絞って奮戦した。彼女が恐ろしい咆哮をあげるたびに洞窟は呼応して青く照り輝き、敵兵たちはオベタルに近づくこともかなわず血を吐いて倒れたという。
 しかしオベタルの奮闘も長続きはしなかった。追い詰められ、力を使い果たした彼女の体は、ヤデムの槍とバンクの矢に同時に貫かれるや最も価値の低い石の塊となり果てた。

 エンシに対抗するため地の子らを率いた「光の勇士たち」の記録にもオベタルは登場する。
 その中で彼女はモグラの爪をもつ巨大な黒いコウモリとして顕現しており、その体には長いヘビの尾が生えていたとある。

 光の勇士たちはまばゆく輝く宝石と貴金属に誘われ洞窟の奥に足を踏み入れたが、そここそがオベタルの宮殿であった。
 オベタルが叫ぶと、石や鉄で作られた恐るべき巨人が光の勇士たちに襲い掛かり、彼らは苦戦を強いられた。
 最終的に光の勇士たちに敗れたオベタルは、地の奥深く、遥かなる闇の中に逃れ、二度とその姿を現すことはなかった。

 数々の物語におけるオベタルの記述は一貫性を欠くため、彼女がいくつもの化身を同時に操っていたのだと唱える学者もいる。または複数の別の女神の伝説が混じり合ったものだという説もある。

 しかし数々の伝説に共通しているのは、その最期の描写がいずれも不明瞭であることだ。
 実際に彼女は滅んでおらず、今でも復讐を誓って地の底に潜んでいるとの噂もある。

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金くれ