【ダンジョン潜り】 (2-6) ~巡礼者たち~
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「巡礼者だ! 巡礼者たちが着いたぞ!」
衛兵の叫びに呼応して、町は騒然となった。
「巡礼者だ!」
「巡礼者が来たってよ!」
家々や商店のドアが開き、慌ただしく駆けだしてくる者もいる。
「どこの巡礼者だ?」
問う声に、衛兵が答える。
「ティラだ! ティラの者たちだ!」
南の鉄門はすでに開かれ、町民や旅商人たちが門のまわりに集まっている。
私たちも南門に近づいていくと、荒野の向こうから歩いてくる一団が見えた。
衛兵たちに先導されてくる一団は皆、黒地に大きな白い円、つまり満月をえがいたクロークをまとっている。リドレイのものと同じだ。
彼のクロークほどではないが、巡礼者たちのそれも長旅に汚れている。
巡礼者たち。稀に目にするこの一団は、各地をまわる神官や巫女たちである。
ティラやリナーリル、エスなど、多くの信徒を有する神の寺院や祠はあらゆる地に点在し、聖職者たちは研究や鍛錬の一環としてそうした聖地を巡る旅に出ることがある。
特にティラの教団は巡礼の旅を重要視し、神官たちは総本山ティロム神殿を含む7つの大寺院を訪ね歩くことになる。
今、リインの町に入らんとするこれらの者たちもその旅の途中であろう。
巡礼者たちが門を入ると人々は彼らを歓迎し、彼らの革袋に次々に旅銀や糧食を施し入れる。そしてティラの祝福と加護を求めるのだ。
巡礼者の一団の先頭を行くのは鎧を着こんだ人間の女と、エルフの男だ。神官戦士である。
そして6人の神官がつづく。人間も、ゴブリンも、ナガもいる。
殿には槍をかついだ2人の戦士。彼らは守護騎士だろう。
巡礼者たちは人々の熱烈な歓迎を受けながら、ゆっくりと中央広場まで歩を進めた。
群がっていた人々がひと通り落ち着き、巡礼者たちが腰を下ろすと、リドレイがそちらへ向かっていった。彼はなぜか、ひどく難しい顔をしていた。
私とガイオも彼のあとから着いていった。
「兄弟たち!」
リドレイが呼びかけると、巡礼者たちがいっせいに彼を見、疲れた顔をぱっと輝かせた。
「おお、我が兄弟! かような地で月の僕にまみえるとはなんと光栄なことだ!」
エルフの神官戦士がリドレイの体を強く抱いた。
リドレイと巡礼者たちは型通りの挨拶から始めてしばらく親しく雑談を交わしたが、ふいにリドレイが厳しい顔になって尋ねた。
「兄弟たちの中で、近ごろティロム神殿を訪れた者はいるか?」
3人の神官が応じたが、その中でもいちばん最近に訪れたという女にリドレイはさらに尋ねた。
「我が姉妹、神殿は光に満ちていたか?」
「ええ、光に満ちていました。」
「輝く昇降台は、あったな?」
「もちろん健在でした。」
「大祭壇の間の、我らの月の王のお姿は?」
「我が王はお后様と共に。」
「お后様とご一緒に星々を掲げておられたか。」
「もちろん、そうですとも。」
「そうか。いや、すまなかった。兄弟たちの旅路に重ねて我が王の恩寵がありますよう、毎夜祈ろう。」
リドレイが巡礼者たちをねぎらうと、皆が次々に感謝を述べた。
どうやらリドレイは7つの大寺院をすでに巡った身であり、彼らにしてみれば敬うべき兄のような立場なのだろう。
それでもリドレイは、相変わらず硬い表情をしていた。
彼は私たちと合流すると、言った。
「あのダンジョンだが、どうやらティロム神殿そのものらしい。」
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金くれ