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【邪念走】番外編 第1回 踏ん張る力を手に入れる。


邪念走本編は、ランニングを始めてからハーフマラソンの参加、フルマラソンへの挑戦、そしてウルトラマラソン達成の軌跡を描く感動巨編のはずなのだが、ランニング中に沸き起こる邪念があまりにも多すぎて、現在24話を記載したももの、いまだにランニングを始めて半年後、ハーフマラソンに初挑戦した場面という、ワンピースのドレスローザ編並みの長さになっている。

まだ2016年の話である。あれから4年経って、ウルトラマラソンはまだ走っていないものの、フルマラソンは2回走っている。しかし「走って完走」をしているわけではなく、30km過ぎてから、道端に咲き誇る花、全身を包み込む穏やかな風や陽光、沿道からの熱い声援に至るまで、この世のありとあらゆるものに心の中で罵詈雑言を浴びせ、絶望とヤケクソにまみれて足を引きずりながら走るスタイルは変わってはおらず、なんとしてでも歩かずに、そして美しい心のまま完走したい。

そのためにはもはや我流でのトレーニングでは限界がある。サブスリー達成済みの同僚や部下もいるのだが、プライドとシフト表が邪魔をしてなかなか一緒に練習ができない。そう思っている最中、ピップ株式会社が展開するスポーツケア用品ブランド「プロ・フィッツ」と身体のケアを学び、各自の目標達成を目指す6ヶ月のマラソンチームプロジェクト「チーム・プロフィッツ」の応募を見つけた。

名誉監督は青山学院大学陸上競技部の原晋監督である。さらに妻が毎晩リビングでフィットネスしているyoutubeアラサー健康チャンネル竹脇まりなさんもアンバサダーとして参加している。

ランニングしてる暇があれば、洗濯物を畳んだりリビングを掃除してほしいという、夫の健康増進よりも室内の美化を優先する妻も、この錚々たるメンバーであれば応援してくれるかもしれない。そんな切なる願いを込めて応募し、見事に総勢20名の市民マラソンチーム「チーム・プロフィッツ」メンバーに当選したのであった。

メンバーにはランニング初心者やランニング時の怪我に悩む方など様々なバックボーンを持っている。私はというと膝に爆弾を抱え、絶望と邪念と共に走り続ける最年長ランナーである。これはまずい。真面目に練習しないと「感動枠」になってしまう。メンバー全員に励まれながら「負けないで」や「サライ」が流れる中、ゴールするのだけは避けなければならない。

定期的にピップから「今月のサポートアイテム」として、ランニングを助けるアイテムが届き、それを装着してしながらコーチから提示された練習メニューをこなしていく。定期的にオンライン練習会合同練習会などが開催され、お互いの状況を共有し、フルマラソンへの士気を高め合っていく。

こういった新しい仲間ができる感覚、徐々に装備アイテムが増えていって強くなっていく感覚は、ネットゲームでフレンドが増えて無課金から課金プレイヤーに変貌していくような過程が味わえて心が躍る。

最初に送られてきたのは、薄型圧迫固定サポーターであった。

マラソンは自分の体をできるだけ遠くに早く安全に運ぶスポーツである。私はまず「歩かずに完走」を目指しているので、ゆっくりでもいいので、着実にゴールへ向かいたい。

しかし、長距離を”ゆっくり”走ると膝が痛み始めるのだ。20km過ぎた辺りから左膝に違和感が出始め、やがて着地のたびに激痛が走り、まともに走れなくなる。そこからゴールまで歩いたり走ったりと、まことに中途半端なマラソンが始まるのだ。おそらくランニングフォームが崩れているのだろう。適度にリズムよく走ると、フォームも一定するので痛みを感じることはないが、ゆっくり走ることによって、着地の脚の位置や身体の傾きがが乱れ、膝に負担が掛かっていると思われる。

仕事だってそう。適度に忙しいと次々に業務を捌いていけるが、暇な時間が続いたり上司が不在だと、エクセルを開くつもりがネットニュースを見たり、業務の打ち合せがいつの間にか飲み会の打ち合わせだったりと、ペースが乱れて生産性が上がらなくなる。

仕事にしろ膝にしろ、適度な「締め付け」が必要なのだ。

その点、この薄型圧迫固定サポーターはつけ心地が絶妙である。薄さ約0.6mmの薄型のストレッチ生地なのでムレず、ごわつかず、締め付けられない。それでいて、上下左右に入ってる固定素材でズレも抑制されている。この商品自体が「スポーツを楽しんでいる間は、すっかり忘れ去られるような存在でありたい」ということを目指しており、ランニング中に装着を意識することが全くない。

ドラッグストアでも販売しており、ランニングという激しい痛みにも効果を発揮するものなので、日常的な膝の違和感や痛みにも効果を存分に発揮する。この締め付けによって、フォームが安定して長距離をゆっくり走ることが可能となるのだ。

初心者ランナーの悩みやランニングをやめる理由の1位は「膝の痛み」といわれている。膝の痛みはとにかくテンションが落ちる。前に進みたいのに進めない。着地するたびに不安と恐怖の影がよぎる。やがて「進みたい俺」という希望から「進めない俺」という絶望に変わり、自己嫌悪に陥ってしまう。PCのキーボードのENTERキーが効かなくなった時もそうだった。効かないENTERキーを連打するたびに「原稿を書きたい俺」から「原稿が書けない俺」に変わり、やがて物書きそのものの適性を疑い始めるのだ。

このサポーターは、ランニング時のENTERキーのようなものである。使用頻度が最も高く、そして頑丈さを求められる。より快適なENTERキーを手に入れることによって「踏ん張り」が効き、自己嫌悪に陥ることなく諦めずに前に進むことができるようになる。ランナーは、ひとまず膝に対して適切な対策を施し、クリアすることで自己の適性を疑うことなく、可能性だけを追求できるようになるのだ。

私は、薄型圧迫固定サポーターで踏ん張る力を手に入れた。

これからチーム・プロフィッツで、ランニングフォームも人生もさらにチューンナップされていくだろう。挑戦の先にあるのは、怪我への不安よりも楽しさ、喜びでありたい。感動枠、最年長ランナーの歩かずに完走するフルマラソンへの挑戦が、今始まった。



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