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  • 処方師のシンフォニア

    ただの妄想、虚言な噺 処方師の私と時々君と

  • メラニウムの嘘

    これは、私の最初の盗作

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初めましてに思えなかった

広い美術室の大きな窓の近く、太陽の光が眩しすぎるほど差し込んでくる窓際の通路。 そこがあの子の特等席。 名前は知らない。正直、大きなキャンバスと逆光のせいで顔をまともに見たのも数回のその子のことを私は誰より知っていた。 白を基準に淡い色をまるで混ぜ込むように入れて、それを濁すように強い意志の色をのせていく彼女の絵。 どこかいつも儚くて、それでいて悲しくなるほど強いその絵が初めて見た時から離れなくて。 同じ部活で同じクラス、同じ授業選択なのに名前も顔も知らないなんて、薄情なや

    • 恋愛対象彼女の独白①

      「わたし、恋愛向いてないんですよ」 中学生の時、友達だと思ってた子に告白されたことあるんですけどね わたし、ノリで言ってるんだろうって思って流しちゃって ある日、友達に連絡するつもりでケータイみたら piririririririri!!! って知らない番号からの電話がかかってきて えぇ、ソイツでしたよ その後すぐにメールで告白されまして、 ご丁寧に3通もね、なんで好きになったかとか 何年生の時に何があって好きだと思ったとか まぁ長ったらしく書いてあったそうですよ?

      • メラニウムの嘘

        初めてその作品を見た時、 本能的に、ただ、本当に 「あぁ、作品にしたい」 そう思った。 おかしな話 だってそうでしょう? もう作品として存在しているそれを 私がどうして作品にするというのだろう。 でも、私の手でもう1つ作り出したかった “非公式”の ホ ン モ ノ を。 元々、“そういうの”が好きだった。 モチーフで何かを作りあげたり、 頭の中の世界をただそのまんま形にしたり、 綺麗だと思ったものを、感銘を受けたものを、自分の 何か として作り替えたり━━━━━━ 曲を

        • 最初のお客様③

          「しょほーしさん、お待たせ!ご要望の夢霧3瓶」 カランコチンと瓶の音をたてながら駆け足で戻って来たアリスの腕には、3つの瓶とハートの箱。 「 …と、これオマケね!」 「あぁ、ありがとう…これは何のクッキーだい?」 「それはいつも通り、食べてからのお楽しみ!」 「“お楽しみ”…か。」 アリスはここに来る度にクッキーやカップケーキを持たせてくれる。あまり人が来ない此処は、お菓子作りが好きな彼女にとって振る舞う機会のない場なのだ。…例えもし此処に人が来たとしてもクッキーにはちょっ

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        • 処方師のシンフォニア
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        • メラニウムの嘘
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        記事

          最初のお客様②

          ザザァァァァ 勢いよく流れてきたのは大量の水 「あぁ〜これはこれはまた盛大な」軀に持ち上げてもらっていなければ恐らく飲み込まれていただろうその波を素早くカバンから取り出したビンに入れていく。いっこうにいっぱいにならないビンを見て我ながら流石、なんて感嘆しながら顔を上げると見覚えのある顔と目が合った。 「あ、しょほーしさん!」 「やぁ、アリス来てそうそうすまないね」軽く挨拶すれば声の主は至って何事も無かったかのような顔で応えた「んーん、アリスもごめんなさい、せっかく来てくれ

          最初のお客様②

          第1話 最初のお客様

          「…暇だねぇ…なぁ、軀?」「クルルルル…」 ここは常世と現世の狭間 中界街の32丁目 幽寂 の7番地 中界街には人もそうでないものも受け入れる店がいくつもある。ウチもその一つ…ただ、客は私が選ぶから何時も閑古鳥が鳴いているけれど。 壁の時計に目をやると、針は既に真上を指していた 「おや、もうこんな時間か」さてと、と立ち上がり準備を始める。毎日のルーティーンだ 「軀!庭の木から幾つか桃を取っておいで、今日はそれを〝お代〟にしよう」クルルと鳴いて窓から飛び出す彼の羽根に反射

          第1話 最初のお客様

          処方師のシンフォニア

          プロローグ この世には色々な人がいる。 背の高い人、低い人 明るい世界にいる人、暗い世界から出られない人 自分に自信のない人、自分が好きな人 声が高い人、低い人 健康な人、病気持ちの人 生きている人、死んだ人 生きたい人、手放したい人 「金持ちだろうが 貧乏人だろうが 欲しいというなら与えてやる。老若男女は関係ない。」 「それがあたしの“処方”だ」 これは、とある処方師の生涯の処方記録 人として生き、夢と

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