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最初のお客様③

「しょほーしさん、お待たせ!ご要望の夢霧3瓶」
カランコチンと瓶の音をたてながら駆け足で戻って来たアリスの腕には、3つの瓶とハートの箱。

「 …と、これオマケね!」
「あぁ、ありがとう…これは何のクッキーだい?」
「それはいつも通り、食べてからのお楽しみ!」
「“お楽しみ”…か。」
アリスはここに来る度にクッキーやカップケーキを持たせてくれる。あまり人が来ない此処は、お菓子作りが好きな彼女にとって振る舞う機会のない場なのだ。…例えもし此処に人が来たとしてもクッキーにはちょっとした“お楽しみ”要素があるから振る舞えるかは微妙だが。

カタンと置かれた3つの瓶にチラと目をやる
右から桜色、秘色、白緑

「おや、今回の夢霧は3瓶とも違う色なんだね」
「最近夢霧が少なくなっちゃって…ストックならあるから同じ色で揃えられるけれど、新しい方がいいかしらってそれぞれ別な所から取ってきたの!…ダメだった?」
「いや…」
夢霧が少なくなっている…?
夢霧の成分は現世で人が見た夢だ。1度は夢として人を迎え入れ、思い出されることのなくなった夢。
それが少なくなるということは、夢を見ない人が増えたか、眠る人が減ったか…

トントン

「あ!マリーちゃんかしら」
「誰か来る予定だったのかい?」
「んー、ふていきにくる子?」
「不定期に…?」
思考を巡らせていた脳に入ってきた子気味いい音にドアの方へと目を向ける。…一向に入ってくる気配はない。

「…開けてやらないのか」
「あ!私ったら!そうよね、此処は私の家だもの」
パタパタと慌てて駆けていく彼女に苦笑する。

「やっぱりマリーちゃん!」