白粉花が枯れたら

泣きたくなる。

あなたの優しさに触れる度、わたしの弱さが浮き彫りになっていく。


いろんな4文字を飲み込んだ。
言わなきゃいけない4文字までどさくさに紛れて飲み込んでしまった。
吐き出す術は忘れたことにした。

夢で逢う。
目が覚めるといつも泣いてしまう。
夢の中の温もりを忘れられず3センチ浮いているような心地で過ごす。
ピントがあなたに定まったままのせいで世界の輪郭はぼやけ、何も手につかなくなる。
思い出の中でしか息ができなくなってしまう。
それでもわたしは、過去のわたしを葬ることすらできない。

いつでも、だれの前でも、いい子ちゃんでいたいのだ。

情けない。みっともない。救いようのないお子様。


あなたは叱ってなんてくれないだろう。

花壇の白百合が当て付けにしか思えなくなった。
「純粋」とか「無垢」とかに並んで「甘美」だなんて。
あんまりだ。
見る度痛い。
全部摘んで、白粉花に植え替えてしまいたい。
その方がわたしはちゃんと痛いと言える。

自業自得のくせに。

ふわふわ。ゆらゆら。
海月にでもなれたらよかった。

誰かがいなくなることを極端に恐れてしまう。
これは言い訳だろうか。

あの日、逃げたことを後悔している自分の隣で、安堵している自分が確かにいる。
これは罰なのだ。
甘い、甘い、罰だ。

いつだって痛みと手を繋いでいる喜びを孕んだ、あなたとの共通言語が増える。
あなたの一挙手一投足に一喜一憂していることを幸せと呼びたくなる。
ほんの一瞬、言葉が重なったことにさえ「運命」だなんて大袈裟な名前をあげたいと思う。


馬鹿だね、なんて笑ってくれるだろうか。
いいや、あなたは「馬鹿」なんて言葉は使わないだろうな。

臆病なわたしとの決別は同時に大きな何かを失うことでしょう。
心の半分を失うような、身体に大きな穴が開くような、想像もできないほどの痛みを伴うでしょう。

だとしても、

数分前のわたし、泣いていいのはおまえじゃないよ。


許されることじゃない。

飲み込んだまま吐き出せない4文字の代わりに。

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