わたし、徳川家康に会ってきます! 【読書;もしも彼女が関ヶ原を戦ったら】

封切られたばかりの「もし徳」
その作者=眞邊明人さんが2022年に著したのが戦国武将たちの行動や言動をリアルに表現した戦国絵巻「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」

冒頭で説明されているのでネタばらしすると入社5年目のOLが被験者となって戦国シミュレーション・ゲームをテストし、豊臣秀吉勢に加わって東軍を倒せ、というゲーム・・・・・・と説明して仕舞えばそれまでだが、実はそれだけじゃなかった・・・・

興味深いのはこのストーリーが関ヶ原の戦いをシミュレートする場面と同時に傾きかけたゲーム開発会社の吸収合併をめぐる社内人事抗争が、あたかも戦国時代の武将たちの攻防のように描かれているところ。

つまり関ヶ原の戦いと社内人事が同時並行で進展してゆく二階建ての構造を持つところにある。創始者の妻で大株主でもある会長は大阪城に籠城する淀君と対比させて描かれているところもミソ!

電極のいっぱいついたヘッドセットを装着し目の前に広がる拡張現実は、あたかも大阪城の大広間に座っているような感触がフィードバックされます、がそれは瑣末な演出の一部。登場する実在の武将、家臣たちはAIで自律的に動き、彼らと会話したり実際に戦場で合戦したりもできるのです。

豊臣勢の家臣たちと関ヶ原の一戦に向けて作戦を練り、配置をめぐって武将たちと交渉にあたるところがこのシミュレーションの醍醐味。架空の人物として参加することも、実在の武将になり変わってゲームを進めることもできるのだ。
被験者だけが唯一、史実としての結末を知ってはいるが展開次第では全く違う結末も用意されてる・・・・・・家康の首を獲ってしまう?とか・・・・

ゆえにタイムパラドクスは気にする必要がなく、史実に忠実に行動する必要はない。結果は全てコンピューターが予測してくれる。
白眉はクライマックスの関ヶ原の決戦シーン!架空の武将を演じるOL〜みやびは特別に徳川家康陣営に招かれ、直接家康と会話を交わす・・・・・が交渉は決裂。関ヶ原の決戦は火蓋が切って落とされる。

攻撃を受ければ、痛みもアレンジされて直に感じられるリアルな作り。飛び散る血飛沫などは省略され、兵士たちの顔は同一と間に合わせの部分もあるが、何しろ開発途上の巨大なシステムなのだ。

決戦シーンの描写は映画化も意識して書かれたというくらい、ドラマチックでダイナミック。本当に映像化したら巨額の予算を要するものもキーボード上ではいとも簡単に作成できる。
そして彼女は本当に家康勢に打ち勝つことができるのか?

クライマックスの合戦シーンだけで終始してしまったら、ただのシミュレーション小説に終わってしまうが物語はこのゲームを開発した会社の合併問題で決着する。
会社人事を戦国時代に例えるなら・・・・・ここに作者の巧みな技が隠されていて、思わずやるなあ!と感嘆してしまったほど。着地点が実に見事だった。

ビジネス書を数多く手掛け、柴田錬三郎ファンだという作者は演出の肝を心得てらっしゃる。
読み心地満点。ストーリー展開も破綻が泣く最後まで食い入るように読み続ければ、500ページに届きそうな分厚いボリュームも一瞬(?)いや1日で終わってしまうかも・・・・・・

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