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「音の絶景」

 行政のイベントで、区民大学、というものがあって、道路の脇に立っている「掲示板」で最初は見つけた。区民というだけで無料で受講できることを知り、興味がある時は、確か往復ハガキで申し込んで、何度か講座を聞くことがあった。

講座

 知らない講師の時は、興味がある内容。
 知っている講師の場合は、自分が知らない話。

 そういう講座をなるべく選んで、話を聞いてきた。

 そんな中でも、その講座の本質ではないかもしれないけれど、今でも時々思い出す話がある。

 講師は、伊藤亜紗氏だった。

興味深い本

 その講座の募集の前に、何かで間接的に話を聞いて、名前を覚えて、本を読んだ。

 距離感が難しいテーマと思っていたのだけど、とても絶妙で丁寧な書き方に思えた。最後に当事者性についての話もしているが、こうした「専門家」に時々ある、「高すぎる場所」からの視点ではなく、もっと近くて、正確な観察で、しかも見方の面白さを感じていた。

 だから、「区民大学」に、この人が講師陣にいたから、申し込んだ年があった。

音の絶景

 講義は、目の見えない人にとっての便利な街とは?といったテーマで時間は進んでいたはずだったけれど、その時に質問もした。

 普段の「絶景」というのは視覚が中心になると思うのですけど、目が見えない人にとっての「絶景」は、どんな場所になるんでしょうか?

 その場での思いつきに過ぎなかったけれど、専門家に聞けるチャンスは滅多にないので、失礼かもと思いながらも、カジュアルなことを聞いていた。

 講師の伊藤亜紗氏は、少し考えて、丁寧に答えてくれた。


『「絶景」ということとはちょっと違うかもしれませんが、目の見えない人の何人かが、同じ場所をあげていたように記憶しています。

 原宿駅のホーム。
 
 片方が、神宮の森で、もう片方が人がたくさんいる場所。

 そのコントラストが、音の違いを生んで、面白いらしいです』。


 東京の山手線の駅という、私にとっては意外なことを伝えてくれて、新しい視点を与えてもらった気がして、すごくありがたく思った。

 個人的にも、とても充実した講義になった。


 その「音の絶景」についての話を、時々、思い出す。



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