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一度も見たことがない時刻。

 枕元に、携帯用の小さなデジタル時計を置いてある。

 ある時、ふと目が覚めて、薄暗い部屋なので、その時計のあかりをつけて、時刻を見たら、「8:59」だった。

 ぼんやりした頭だけど、この時刻表示を見たことがないかもしれない、と思った。

倒れた時計

 電波を飛ばして、自分で勝手に正確な時刻を合わせてくれる、というので、仕事に持って行くために、買った時計だった。

 そのうちに、時刻計測が必要だった仕事の場所で、大きな時計を置いてくれるようになったので、持って行く必要がなくなった。

 それで、自分の目覚まし用に枕元に置くようになったのだけど、何かの拍子に、フタが壊れてしまった。どうやって壊したのかも覚えていない。ただ、その時計を立てることができなくなって、横に倒した状態で使っていた。

 目覚ましが鳴っても、手探りで持ち上げて、時計の横の部分を探り当てて、スイッチをずらさないと、音が止まらない。

 それは、目覚ましの目的にはかなっているのかもしれないけれど、夜中や朝方にふと目が覚めて、今の時刻を確認しようとすると、時計が上下逆になっていたり、もしくは、倒れた時計を、少し違う場所に動かしてしまったりすると、どこにあるか分からなくなって、微妙にイライラすると、ちょっと目が覚めてしまう。

 そんな話をしたら、妻が、その時計の横幅ぴったりの箱を探してくれて、そこに、その時計を入れてくれた。

 縦はあまっているものの、そのおかげで、時計は寝転がった姿勢ではなくなり、枕元においても、時刻を見るのでも、目覚ましが鳴った時に消すのでも、すごくやりやすくなった。

 ありがたい。

 置き時計のようになって、なんだか愛着もわいた。

よく見る時刻

 それで、最近、「8:59」という表示を見て、もしかしたら、これまでに見たことがないかも、と思ったが、考えたら、それ以外にも、全く見たことがない時刻表示があるかもしれないと、気がついた。

 家にいる時は、昼寝というか、夕食前に少し寝ることが多く、その時には、午後7時の夕食に向けて、「午後6:45」とか「午後6:57」の表示はやたらと見ることが多い気がする。(12時間表示だけど、小さく、「午前」とか「午後」の文字も出ている)

 朝方は、午前8時には起きないと、と思っていると、午前7時55分にセットしてあるのに、妙に緊張した時は、「7:40」とかを見ることも多いけれど、そこでもう起きるかどうか、ちょっと迷って、ふと眠ってしまうと、目覚ましがなって、起きることもある。

 こんなに短い時間なのに、眠れるんだ、と自分にちょっと感心する。

 だけど、それ以外の時刻表示は、チラチラは見るし、介護をしていて、夜中に起きている時は、「午前4:44」は、よく見かけて、ちょっと縁起が悪い、などと一人で思っていたことも少なくなかった。だけど、全く時計を見ない時間帯もある。

見られない時刻

 人によって違うだろうけれど、多くの場合、睡眠中は、ほとんどの人にとって、見ることがない時刻表示が流れ続けるのだと思う。

 何で聞いたか忘れたけれど、警察が容疑者宅に踏み込むのは、午前4時頃、という不確かな情報を知ったときは、まだ介護中だったので、自分は、その時も起きていると思ったけれど、午前3時から午前4時でも、時計は、休まず、正確な時刻表示を続け、針であれば回り続け、デジタルだったら、数字が変わっているのに、誰も見ないまま時間は過ぎることも少なくないと思う。

 だいたい、デジタル時計だとすると、1時間は60分。1日は、24時間。だから、もしかしたら、厳密にいえば違うかもしれないけれど、60×24=1440(この暗算は、妻にやってもらいました)通りの時刻表示がある。

 それだけの数があると、毎日、似たようなリズムで暮らし続け、しかも、いつも時計を見るわけではないから、ある時刻表示を一度も見ないまま生き続けることもあるかもしれない。

 そんなことを思うと、ちょっと不思議だけど、さらに意味がないとしても想像すれば、誰も見ない時刻表示があるかもしれないし、少なくとも、この1年は誰も見ない時刻表示があったり、国によって違っていたり、晴れの日が多い「特異日」があるように、ほぼ誰も見ない「特異時刻表示」が存在するかもしれない。

 そんなことを思っても、思わなくても、時計は動き続けていて、そして、いつ誰が見るか分からなくても、正確な時刻を常に表示するという役割を担い続けている。

 場合によっては、誰も見なくなっても、太陽光などをエネルギーにしていた時、半永久的に動いて、時刻を示し続ける時計も、おそらくどこかにはあるはずだ。

 当たり前のことだけど、想像すると、やっぱり不思議な気持ちにはなる。



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