急に光を失った「コンパクトデジタルカメラ」の液晶モニター
2020年の3月から、noteを始めて、毎日のように写真を撮るようになった。
携帯もスマホも持っていないので、以前、人から頂いた小さなデジタルカメラで撮影をしていた。
それは、ボディにファインダーがついていて、小さい穴のような部分に目を近づけて、直接に近い形で風景を見られるので気に入っていたのだけど、かなり古いせいもあって、2回落としたら壊れてしまった。
もう修理もできないようだった。それで、そのカメラは残念だけど、諦めることになった。
コンデジを購入する
それでも、noteを続けていたし、ずっと携帯もスマホも持っていないので、妻の持っているデジタルカメラを借りることにした。
新しめのデジタルカメラなのでスイッチを入れてからの反応も早く、ピントもきちんと合わせることもできて、しかも軽くて使いやすかった。
ただ、私の方が毎日のようにカメラを使って、あれこれ撮影しているから、所有者の妻よりも使っていることになり、妻はそれほど気にしていなかったけれど、私は少しずつ後めたさが重なっていった。
それで、カメラを買うことにした。
スマホで撮影するのが当たり前になっている時代には、コンパクトデジタルカメラ自体があまり販売されていなくて、場合によっては、少し前に発売されているのに、値段が上がっていることも知った。
そのうち、一部の高級コンパクトデジタルカメラ(この時、コンデジというのも初めて知った)以外は、なくなってしまうのかもしれないと思った。
いろいろ迷って、考えて、やっとコンデジを買った。現時点では、調べた中で一番安い商品だった。
それでも、やっと自分だけのカメラを再び使えるようになり、妻にも、これまで申し訳ないと思いながらも、やっと毎日のように借りなくても済んで、勝手なことだけど気持ちが楽になった。
ちょっと使い心地が違ってきたのだけど、すぐに慣れた。
それがほぼ1年くらい前のことだった。
それから毎日のようにカメラを使っていたせいか、もっと長く使っているような気持ちになっていた。
カメラの落下
毎日のように撮影し、ほとんど家の中で使っていることが多かったのだけど、時々、外出する時にも、もちろんカメラを持っていった。
街を歩くと、それだけで、普段は目にしないような光景があちこちにあって、歩いていても気になって、その度に、リュックからゴソゴソとカメラを取り出して撮影する。その繰り返しをして、一緒に出かけている妻には、そこでもちょっとイライラさせてしまうのかもしれないけれど、でも、カメラを持っていると、撮影したくなる。
最近は、美術館などでも撮影はOK。動画はNGという場合が多くなってきたため、そこにもカメラを持っていくことが増えた。だけど、鑑賞と撮影を両方するのは、その分、集中力が分散するような気もしているので、必要と思った以外では、あまりカメラを取り出さない。
それでも撮りたいと思ったりしたときは、カメラを構えて、撮影する。そのあと、持っているバッグの中に入れる。美術館などに入るときは、持っているリュックはロッカーに預けて、メガネや、そして、夏の間は特に美術館などの中は冷房が強いせいか、寒がりの私にとっては辛いので、そのためにセーターなどの防寒具、場合によってはマフラーなども必要だから、そのためにビニールのバッグに必要なものだけをうつしているのに、かなりの大荷物になってしまう。
ちょっと重い。
その中にカメラを入れて、美術館の中などをうろうろするから、メガネなども含めて、その時に必要なものを取り出す時に、そのバッグの中に手を入れて探すのだけど、その必要なものが逃げているのだろうか、と思うくらい、見つからない時がある。
そういう行為をしているときに、さっき撮影をして、しまっていたカメラが知らないうちにバッグから落ちた。ただ、下は床だし、ケースにも入れているし、ちょっと重めの音はしたものの、その瞬間は気にしていなかったのは、これまでにも、大事にしてきたという思いはあるものの、何度もカメラを落としていたから、どこかで、あまりいいことではないけれど、慣れていたせいもあった。
光を失った液晶モニター
だから、ほんの数分前のことなのに、そのときは、カメラを落としたことも忘れて、美術館の中で、次に撮影したい作品が目の前にあったので、カメラを取り出した。スイッチを入れた。
そこまで全く一緒だったのに、ちょっと違ったのは、本体の背面にある液晶モニターが暗いままだった。スイッチを入れる前と同じなのに、光を失ったように見えて、ちょっと怖かった。
一度、スイッチを切って、また入れる。
モニターは暗いままだった。
電池式だったので、底のフタを開けて、一度は電源を完全にオフにして、もう一度、電池を入れて、フタを閉める。
これで、なんとなくリセットできたような気がして、またスイッチを入れる。
モニターは、黒いまま。
ここで、本格的に焦る。
さっきの落下で壊れたのかもしれない。もう、今日は、撮影自体ができないかもしれない。
ただ、それでもスイッチに触りながら、ピントを合わせようとすると、いつもと同じ「ピッ」という音がして、だから、さらにスイッチを押す。いつもと同じように「カシャ」のような電子音がした。
だから、モニターは暗いままだけど、撮影されているかもしれない。
あとは、フラッシュが光らないようにセッティングしているけれど、それが保たれているかを確認するために、建物のすみっこで、下を向けたら、いったんフラッシュが光ってしまったことがあった。だから、フラッシュを切る設定を、モニターが暗いままだから、こんな感じかな、という感覚だけで、あれこれボタンを押したら、フラッシュが光らなくなった。
それから、何枚か撮影をしたけれど、それがうまくいっているかどうかは分からないまま帰宅した。
コンピュータにつないで、読み込みをしたら、モニターは暗いままだったのだけど、写真は写っていた。ただ、ピントが合ってなかったり、アングルが意図したものと全く違っていたりもした。
このままだと使いにくいままだし、机の上に何かを置いて撮影するときはアップにしたりして、画面への入り方を調整するけれど、モニターが暗いままだと難しいと思った。
その一方で、最近、少し放っておいたらリモコンが直ったこともあったし、明日になれば理由はわからないけれど、直るかも、というような期待と、このままモニターが見えないままでも、毎日のように撮影を繰り返せば、慣れてきて望む写真が撮れるようになる可能性はないだろうか。そうなると、その過程も含めて、こうしてまたnoteに書けるのではないだろうか。
そんなようなことをあれこれ考えて、次の日になって、その次の日になった。
だけど、モニターは光を失ったままさらに日数が経った。
普段、あまり後悔をしないほうなのだけど、あのとき、どうしてカメラを落としてしまったのだろう。ケースに入れていたのだけど、そのケースのファスナーは少しだけ開いていたから、それが衝撃に対しての耐性を少し弱めてしまって、そのために壊れたのだろうか。
あの一瞬の油断やうっかりのせいで、今も貧乏なままなのに、自分にとっては、かなりの金額を使うことになるのだろうか、といった後悔が回っていた。
修理を考える
このカメラを購入したのは1年以上前だった。
さらに、箱も見つけて保証書のようなものもあったのだけど、その日付はやはりもう1年以上経っていたので、修理をするのならば、実費になるのは覚悟する。
そのあと、メーカーのサイトを見たら、英語が並んでいた。
そして、また少しそのメーカーのサイトを探し、カメラの機種の記号を見て、もう修理していないリストに入っているように思えた。それは、もしかしたら、勘違いかもしれず、というよりは、あまり修理に力を入れているようにも思えず、そのために、自分で諦めるために、そう見えてしまったのかもしれない。
さらに、そのメーカーの住所が、自分が住んでいるところから遠かったし、電化製品の修理は、最近難しくなっているから、それで気持ちが投げやりになっていたことも、そう思った原因かもしれない。
だから、買い換える気持ちに傾いていたのは、最初に購入した値段が約2万円で、しかも、販売される機種が減る一方のコンデジだから、修理をしてくれないのではないか、という思いと、こうしたカメラはだんだん値上がり傾向にあるから、早めに買っておいたほうがいいと思ったせいだ。
それでも一度は修理を考えたい、という思いも消えず、家電量販店のサイトを見ていたら、そこで購入したという気持ちもあったけれど、他社での製品も修理を受け付けますという文字もあり、だから、まずは持ち込んでみようと決めた。
家からは少し遠いけれど、今度、仕事で出かけて、帰り道に途中の駅で降りれば、行けるはずだ。
その日は、カメラを落として、モニターから光が消えてちょうど1週間の日だった。
修理カウンター
久しぶりに大きいショッピングモールの中にある家電量販店に来た。
この系列の店で初めてコンピュータも買ったし、今回、壊れたカメラもインターネットで購入した。他の量販店とどう違うのかもよくわからないけれど、自分の生活圏内の中にあったから、気がついたら、ここで買うようになっていただけ、という単純な理由だった。
店内に入ると、少しレイアウトがかわっていた。やや戸惑いの気持ちもあり、エスカレーターのそばにいる店のスタッフの人に「修理のカウンターはどこですか」と聞くと、この下の階にあります、と教えてくれたので、降りて、その階のレイアウトが書いてある図を確認して、修理の文字をめがけて歩いていく。
店のすみ、というイメージ通りの場所に「修理カウンター」はあった。
そこに座っている人に聞いたら、整理券を取ってください、と言われ、それを抜き取ったら、すぐに呼ばれた。
髪の毛を真ん中から分けた、若いと思うのだけど、年齢がわかりにくく、座っているだけで身長が高いと思われる男性に呼ばれて、目の前に座った。
カメラを取り出して、机の上に置いた。
スタッフとの会話
最初に、この店で買ったことを伝える。
すると、長期保証という言葉を伝えられる。
でも、確認する方法がないんです、といったことを返すと、カードがあればわかりますよ、とすぐに言われたので、え、と気持ちがちょっと明るくなり、手帳のポケットにさしてある、この量販店のポイントカードを渡す。
男性スタッフは表情を全く変えずに、目の前のコンピュータのモニターを見ながら、キーボードを叩き出す。
「このカードは2020年を最後にお使いいただいていません。ネットで購入されたのは、また別にポイントが貯まっているはずです」。
それだけを言われ、ポイントカードを返される。
それならば、名前を入力すれば、そのネットの方の状況とか、長期保証がされているのかどうかとか、今のようにすぐに分かるのでは、と思って、そのことを伝えようと思ったのだけど、威圧感はないけれど、余計なことは絶対にしないといった柔らかいけれど強い決意を、その無表情に感じ、体の動きさえ最小限にして、自分の言葉をこちらに伝えてから、本当にぴくりとも動かないので、なんだか、それ以上のことを伝えるのを諦めた。
もしかしたら、意外と、調べてくれるのかもしれないけれど、向かい合っている時は、それはできません、という声がすでに聞こえてくるような気がしてしまって、もう気持ちは重かった。
カメラを渡す。
「モニターが映りませんね」。
さっき、そのことは伝えたのだけど、そのスタッフは繰り返す。
すでに、相手はAIかロボットに思えていた。
「そうです」。
「いつ頃からですか?」
「1週間くらい前からです」。
会話が弾む、そこまでいかなくても、スムーズに会話が流れていくような、そういうイメージが一切わかない時間が続く。
修理依頼
こちらから、何かを言わないと、どうやら何も続かないようなので、修理をお願いするとなれば、どうなりますか?といったことを尋ねる。
「分解修理は致しません。〇〇交換になります」。
〇〇の部分が聞き取れなかったのだけど、もう質問する気力が不思議となくなっていた。
そんな逡巡とは一切関係なく、こちらが修理を依頼した時の話を相手は続けている。預けたら2〜3週間で修理が完了するのは分かった。だけど、こちらが知りたいことは、話が一段落してから聞いた。
--すみません。修理をお願いするときに、途中でいくらかかるか分かると思うんです。これまでは、その時点で連絡をいただいて、その値段が思ったよりも高い場合には、それなら新品を買おうと決めたりできたんですが、そういうことはできますか?
反応がないので、言葉を変える。
それは、今、この目の前の書類にサインしたら変更ができそうもないので、確認したかった。
--今日、修理をお願いして、途中で修理の料金が分かった段階で、いったんその流れを止めてもらって、連絡をいただくことはできますか。
そう聞くと、しばらくこちらをぼーっと見ながら、少し時間が経って、答えが返って来る。
「これまでのことから考えると、止まりません」。
もう自分の常識は通用しないのだと思った。そして、もう、ここで頼むか頼まないのかの2択しかなかった。
そこで、無理かもと思いながら聞いてみる。
「目安でいいので、どのくらいの値段がかかるでしょうか」。
答えはすぐに返って来る。
「分解修理はいたしません。この場合だと、3000円とか5000円くらいということではないです。ただ、販売価格より高いということはありません」。
このカメラの販売価格は現在2万800円と言われ、でも、情報はそれだけなので、おそらくは1万円台くらいではないか。もしかしたら、ほぼ販売価格ではないか、とこちらは考えているが、向かいに座っている男性スタッフはフリーズするように無表情のままだった。
それで、ふと思い出して、メーカーのサイトでは修理できません、と見た気がするんですが、という言葉を投げかけると、スタッフはスイッチが入ったように話し始めた。
「現在、販売している商品の場合は、部品はあるので、そういうことはないはずです」。
そこまでよどみなく話をして、止まる。
こちらから、そのことを確認してもらって、場合によっては、今の手続きをやめることはできるのだろうか。などと、ちらっと思ったものの、目の前に座って無表情で止まっている男性スタッフを見たら、そう言う疑問を言葉にする気力が一気になくなった。
「そうですか。お願いします」。
署名をして、書類を渡すと、さらに早口になった。立板に水、という表現よりも、さらにスムーズに確認事項を伝えてくれた。最後に、連絡は固定電話。引き取りは店舗になります。で話は終わった。
それは、これまでの繰り返しだったが、私の名前と住所と電話番号を確認した後、書類の控えを渡してくれた。A4の紙を、すごくきれいに、それこそ機械のようにピシッと四つ折りにしてくれた。
本当にロボットのようだった。
カメラを預けるときに、中の電池とSDカードを抜いた。そのとき「エネループですね」とそのスタッフの方から反応した。それは、今は会社としてはなくなった、サンヨーの充電電池だったせいかもしれない。
なんだか変に疲れたが、何しろ修理を頼めた。お金はかかってしまうけれど、2〜3週間後にはカメラは撮影できる姿で戻ってくるはずだ。
それまで、また必要な時は、妻のカメラを借りることになると思う。
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