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「保坂和志の小説的思考塾」についての短いレポート

 すごいと思っている書き手がいて、以前は、その人に会いに行く、みたいな行動は、勝手に「違う」と思っていた。

 ただ、いつの頃からか、書いているものに対して、敬意を持てる人が生きているのであれば、例えばトークショーみたいな場所でも、直接、その人がいて、話をしている姿を見て、言葉を聞くことで、その後、その作品に対して、さらに理解が深まるような、もしくは違う視点で読めるような気がすることが多くなった。

 だから、書き手の人すべてが、「表」で話すとは限らないのだけど、そういう機会があったら、なるべく行くようにしている。勝手に何人か、一度は話を聞きたいと思っている人がいて、だけど、そういう人に限って、あまり公の場所で話してくれるわけではない傾向が強かった。

トークショー

 まだコロナ禍になる前に、巣鴨に行って、保坂和志のトークを聞きに行ったことがあった。そんなに情報に対して気持ちを張り巡らしている方でもなかったけれど、それでも、自分にとっては、「あの保坂和志」がトークをするという情報を聞いて、そんなに熱心なファンではないと思うのだけど、でも、例えば、小説だけでなく、この本(「小説、世界の奏でる音楽」)を読んでいて、何か、今まで知らないような、何かが開けてくるような感覚が体に起こったことを思い出し、そういう人の言葉が聞けるのならば、と思い、ちょっと焦って、申し込んだ。


(この作品↓は、連載を単行本化しているので、確か、この前に先行する本。「小説の自由」、「小説の誕生」から続けて読んだ方がいいかもしれません。読むと新しい視点が開けるような気はします)。


 初めて同じ空間で話をする保坂和志氏をみて、不思議な人だと思った。

 何かを確信している人の大胆さと、その会場の空調にまで気遣う細やかさがあって、そして、自分が話しながら、その話す内容に引っ張られるように、あちこちに飛びながらも、面白い、という、考えたら、保坂和志の書く作品と似ている構造だと感じた。時々、こちらに強く踏み込むような言葉と熱がやってくる時間でもあった。

 だけど、それからコロナ禍になり、ワープロから、また手書きに戻ったような人でもあるし、直接、同じ空間で話すことの力を感じているとしたら、リモート的なことはしないのではないか、と勝手に思っていた。

保坂和志 小説的思考塾

 佐々木敦氏のツイッターで、急に、「保坂和志の小説的思考塾」を、リモートでもおこなう、それもユーチューブライブで開催されると知って、気持ちが微妙に泡立つような感じになり、日曜日午後5時から7時、ということなので、妻と相談をして、申し込んだ。

 2021年2月28日。午後5時の10分くらい前に、その送られてきたURLにアクセスしたら、すでに保坂和志は、話を始めていた、というよりも、いつから話しているか分からないくらい、もう話し続けているような気配だったから、あれ、何か間違えたのだろうか、と思うくらいだった。

 画面の下に、これから話すのに備えて、ウォーミングアップのような語りをしている、と知ったが、もう本番が始まっているようにしか思えなかった。

 資料もダウンロードした。大部分は、保坂和志のノートを写真に撮ったものだった。

 午後5時から話は始まり、1時間ほど続き、10分ほどの休憩をはさんで、再び1時間話をして、終わる、ということだったが、全体で受けた印象は、いつも、保坂氏しか話せないようなことをずっと話をしている、というものだった。

 それこそ、書いたり、表現したりすることへの根本的な意味を、改めて気がつくこともできて、あまり短くまとめてはいけないのだろうけど、、シンプルに「力づけられたような気持ち」になった。

保坂和志の言葉

 2時間強の時間の中で、いろいろな話をしていたのだけど、その中で、自分として印象に残った言葉を少しあげてみる。こうした行為が、保坂和志が話していることに反しているのもわかるのだけど、ただ、こうした具体的な例を出さないと、自分の言葉だけでは、この時間の豊かさが伝わらないように思えたので、ご容赦いただきたいと思います。(詳細は微妙に違う可能性がありますが、その場合は、この文章を書いた「おち」に文責があります)。

 
 話し言葉で、とうとうと論理的にしゃべっても、面白くない。言い淀みや、いい間違い、そういう一つの線の流れではない話の流れ。水面に広がる波紋のように広がっていくものだと思う。

 信じる方が、疑うよりも力が必要。

 文学は日常的思考を相対化するもの

 どうしてするのか、と理由を問うのではなく、大事なのは、彼ならするよ、ということだったりする。

 書くことだけでなく、表現したことで、自分の内面が耕やかされないと意味がない。

 書く前と書いた後では、書いている本人が成長するような書き方をすべき。

書くことについて

 特に、書くことに、書いている人間が影響を受けて、そして成長していく、それが小説を書くことだ、というのが、とても納得もいったし、こうしたことを断言しながら、それを証明するような作品を書き続け、そして商業的にも成立しているのは、もちろん本人の才能だと改めて思いながらも、とても励まされることだった。

 話すのを聞いていると、この人は、小説家としてデビューする前から同じことを、周囲がけげんに思うほど、自然な自信を持って語っていたのではないか、と感じた。そういうことを可能にするのは、何より才能だと思うのだけど、それでも、こうしたことを話しながら、こうした人が、現役の小説家として、現代に生きているのは、ありがたい気持ちにもなった。


(書籍としては、書くことについて、他では書かれていないことが、ここにもあると思いました↓)。

 これから先、「思考塾」がまたいつあるのかは分かりませんが、もし、興味を持たれた方がいらっしゃったら、一度は、その話を聞く体験はした方がいいと、珍しく強めにすすめたい気持ちになっています。


(ホームページには、話している動画も少しあります)。



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