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いつもじゃない図書館へ行って、帰ってくるまでのこと。2020.3.16.

 いつもじゃない図書館へ行くのは2回目だった。
 前回は、3月8日に行った。その時も、「一部サービスが休止」されていた。図書館で閲覧もできないし、閲覧室や休憩のコーナーなどは使えなくなっていた。受付カウンターがあって、そこで、返却と、予約した本などを借りることしかできなくなっていた。(あとは、新規利用者登録や、更新の手続きはできる)。
 当初は、3月中旬で、いつもの図書館に戻るはずだったのに、また伸びた。3月いっぱいは、この状況が続き、しかも東京都大田区の図書館のホームページには、「状況によって変更になる場合があります」とあるから、もしかしたら、いつもじゃない図書館の状態は、また伸びるのかもしれない。

 2020年3月16日。月曜日。風が強いから、古い木造の家は、あちこちでガタガタ音がしている。午後4時30分過ぎに家を出る。空はとても青く、雲が見つからない。風がつめたい。
 少し歩いて、向こうから来る人がマスクをしているのをみて、自分がしていないのに気がついて、家に戻って、マスクをして、また出かける。向こうから、小学生くらいの女の子が2人、自転車を並べて走ってくる。2人ともマスクをしている。
 ベビーカーを押しながら歩いている男性と女性。たぶんご夫婦だと思うけど、女性はマスクをして、男性はしていない。
 マスクのことが、こんなに目に付くのは、やっぱり、今の状況にのまれていて、思った以上に神経質になっているのかもしれない。と思う。

 図書館まで10分と少しかかる。
 道の途中の左側に、小さい教会がある。
『3月2日から3月18日まで、すべての集会は中止です』といった文字が見える。
 後ろから足音がして、小学生らしき女子2人に追い抜かされる。1人が走って前を行き、キックボードのもう1人の方を振り向いて、笑う。2人ともマスクはしてない。

 もう少し歩くと、右側に小さい公園がある。
 大人と子ども合わせて10人以上がいる。2つしかないブランコはフル稼働で、2人の女の子が立って漕いでゆれている。次に乗りたそうな子も並んでいる。

 また歩いていくと、左側に内科の病院がある。
 入り口の自動ドアが20センチくらい開きっぱなしになっていて、『換気のために開けてます』といった内容の文章を見た気がした。

 そこを通り過ぎ、道を右に曲がって、すぐに左に曲がる。
 小さい水路がある、歩道が広い場所にさしかかると、向こうからベビーカーを押した若い男性が小走りで近づいてくる。あと二人、小さい子供達も一緒に走ってくる。たぶん家族だと思う。みんなマスクなしの顔で、何か声をかわしながら、すれ違っていく。
 水路のそばのベンチに座っている白髪の男性が何かを食べて、残ったものを水の中にいるコイに向けて、投げているのも見た。

 そこも通り過ぎ、また道を右に曲がって、坂道を登ると、もうすぐ図書館がある。青い空に、小さくちぎった綿のかけらのような白い雲が、ひとつだけ、浮いている。坂道を登っているわずかな時間のあいだに、空に溶けそうだった。

 坂道を登って、左に曲がると、図書館が見える。マスクをした女性が1人出てきた。敷地内に入って、短い階段を上る。割と近い距離から、カラスの湿った声が響く。
 家を出てから、15分くらいで図書館の入り口に着いた。
 立て看板。ドアに貼ってある紙。
『公開書架・閲覧室・新聞雑誌コーナーなど、ご利用いただけません』。

 図書館利用者は、私以外は1人だけで、先に返却の手続きをしていた。受付の中には、マスクをした2人の職員がいる。2人とも女性だった。
 赤いコーンに黄色と黒のバーがかけてある。「立ち入り禁止」の文字があちこちにある。受付カウンターの右側には、新聞・雑誌コーナーがあって、いつも人がいるのに、そこには入れず、電気はついてないから、薄暗くなっている。その隣には、休憩コーナーがあって、机と椅子があるはずで、食事もできる場所だけど、そこも立ち入ることができない。当然、暗い。2階にも行けない。

 半円形で、中に職員がいる受付カウンターは、返却と貸し出しでゆるやかに区切られている。先に来ていた利用者が返却をして、少し時間がかかっていたら、マスクをしてない男性職員が「立ち入り禁止」の向こうからあらわれ、「こちらへ」と、貸し出しのコーナーへと促されたが、その時に返却の作業が終わった。
 だから、そのまま小さく前進し、返却をするために、「お願いします」と声をかけて、本をカウンターに置いていく。男性職員は、立ち入り禁止の向こうにある階段を登って、いつのまにか姿を消している。受付の職員は、1冊ずつカードリーダーをかざし続けている。

 それから、図書館のサイトを使って予約をしていた本と CDを借りるために、カウンターを横に移動して、「貸出し」と書かれた三角席札(今回、この名称を初めて調べました)の前に並び、もう1人の職員に、図書カードを2枚渡した。
「予約しているので…家族の分もお願いします」と言うと、カードリーダーでカードをかざしてから、カウンターの奥に並んでいる棚に向かい、背中を向けて探してくれた。大きな輪ゴムでくくられた何冊かの本とCDを持ってきてくれる。
「 CDは保護袋いりますか?」
「お願いします」
 貸してくれる本や CDに、カードリーダーを、ピッとかざしている。
「返却は30日までになります」
「ありがとうございます」。
 いつもと同じ最低限の会話だけで、そして、次に返す時も、この状態の図書館に来るんだ、と思う。うしろには、2人の人が並んでいた。いつもの図書館じゃないけれど、借りられるだけでも、ありがたいとは思う。

 カウンターの左側には、公開書架が広がっている。
 その奥まで蛍光灯はついているが、「立ち入り禁止」の文字があって、入れない。だから、ただ、いつものように図書館に来ただけでは、今は1冊も借りられない。電話かインターネットで予約をしないと、何も借りることはできない。
 
 外へ出る。実質的には5分くらいしかいなかった。いつもは、なんだかんだで30分はいるのに、ただ静かに作業をこなした感じだった。
 ちょうど午後5時の音楽が流れ始める。もう1人、女性が図書館へ入っていく。今日、図書館で見かけた人間は、自分も含めて、ほぼすべてが中高年で、平均年齢は50歳を超えるのではないか、という印象だった。
 3月8日の時は、日曜日のせいか、子どもも何人も見かけたのだけど、今日はいないせいもあって、ひたすら静かだった。

 帰りも同じ道をたどって家に帰る。
 さっき白髪の男性が座っていた水際のベンチには、マスクをした2人の女性が水に背中を向けて座っている。

 さらに歩いて、帰り道は左側になった、小さい公園は、大人1人、子供2人と人数が減っている。女の子2人は、ブランコの立ち漕ぎをして、知らない歌を歌っている。

 道沿いの町内向けの掲示板には、『「高齢者ふれあいフェスタ」3月12日は中止です』という紙が、まだ貼ってあるままだった。
 カラスが飛んでいて、空のほうから、鳴いている声が何度も聞こえてくる。
 他の音はあまりしなくて、静かだった。

 駅のそばの商店街の薬屋の前を通って、店の中も見た。マスクの棚には、赤いペンで書かれた「メーカー欠品中」というちょっと古くなった紙がはってある。外にある、いつもならトイレットペーパーやティッシュがぎっしり並んでいる棚には、小さいポケットティッシュやキッチンペーパーが少し並んでいるだけだった。

 近くのスーパーに寄って、家族に頼まれていた、ごま油を買おうと2階へ上がったら、下りのエスカレーターが「側面のガラス破損のため」使えなくなっていた。館内放送では、うまいもの紀行、といった言葉がまじった、やけに明るい口調の放送が流れている。それが場違いのように思えたのは、自分が、いつもじゃない気持ちになっているだけなのかもしれない、と思った。

 買い物を終えて、そこから歩いて、家の近くまで来た時に、ご近所の方とすれちがったので、あいさつをした。「風つめたいねー」「そうですね」と、いつもの会話ができた。
 家の玄関の扉を開けたのは、午後5時半頃だった。

 こんな状況でも、まだ読んだことのない本が手元にあると、やっぱりちょっとうれしい気持ちになれます。読み終えたら、なるべく感想を書こうと思います。今回は、こうした本を借りました。

(感想を書いた本は、そのnoteへリンクを貼ります。よろしかったら、クリックしてもらえたら、幸いです)。


「デッドライン」 千葉雅也

「それを、真の名で呼ぶならば」 レベッカ・ソルニット

「ケアへのまなざし」 神谷美恵子

「公の時代」 卯城竜太 松田修

「生きてく工夫」 南伸坊



(他にもnoteを書いています↓。よろしかったら、クリックして、読んでいただければ、うれしく思います。)



ちょっと気がゆるんでも、やっぱり変わってしまったことに気づいた土曜日。

緊急事態宣言で、図書館まで完全に閉鎖されてしまった

「病気についての常識」で、改めて確認してみたいこと。

#いつもじゃない   #図書館    #マスク

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