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「ビーフン」の「悪い記憶」と、「とてもいい思い出」。

 悪い記憶は、大学時代だから、かなり昔のことになる。

部室の記憶

 私は、サッカー部に入っていて、練習の後に麻雀をしたり、飲みに行って遅くなると、床の模様が、薄い土で隠されているような部室に泊まったりもしていた。

 部室は、学生サークルなどが集まっている古い鉄筋コンクリートの建物の中にあって、サッカーとラグビーの部室は1階の隅っこに並んでいて、自分たちで汚しておいて何だけど、かなり汚かった。

 それでも、毎日のように使うと慣れる。その一方で、男女の部員がいるテニス部などは、テーブルクロスがかけられているテーブルが置いてあるのが通り過ぎる時に見えて、しかもキレイでうらやましかったが、自分たちが見習うこともなかった。

 

 やけに時間の流れがゆっくりで、時々、目の前のことが微妙に遠くに見えるような時もあり、学生時代は限られているのもわかっているけれど、やたらとダラダラとしていた。

(この楽曲から、男女交際を抜くと、その感じが伝わるような気がします)。

ビーフンの悪い記憶

 その時も、何で徹夜したのか。もしかしたら、狭い部室で麻雀をしていたのか、広くないキャンパスのどこかで飲んでいたのか分からないのだけど、とにかくサッカー部の同期の何人かで、泊まることになり、朝方になり、若いから、やたらと腹をすかしていたのは、覚えている。

 ロクに寝ていかなかったけれど、それほど疲れてもいない。

 キャンパスから外へ出れば、道路があり、そこにはコンビニもあり、食べ物もあるけど、こういう時は、それくらいの出かけること自体も、おっくうになる。

 いつの間にか、じゃんけんをして、負けた奴が食料を買うことに決まった。
 4人か、5人くらいで、私は、いつもは弱いのだけど、この時は珍しく勝った。

 負けた一人を見送って、その間も、特に建設的なことをしなかったけれど、時間はたち、その食料購入の人間が帰ってくる。

 どれどれ。

 レジ袋から出てきたのは、最初、焼きそばかと思ったら、糸こんにゃくにも見えて、そうしたらビーフンだった。

 あまりなじみがなかったが、何しろ空腹だった。

 すぐ、食べ始める。うわ。あまり味にうるさくなかったけれど、自分にとって、明らかにまずかった。周囲の反応も似ていて、だから、食料購入者に非難の目を向けたら、動じなかった。

 安かったから

 値段を聞いたら、確かにびっくりするほど、安かった。
 ただ、本当にそのまま食べてよかったのか。もしかしたら、少し温めた方が良かったのかもしれないが、何しろ、ただダラダラした大学生だったので、そのまま、ビーフンはまずい、という悪い記憶だけが定着した。
 
 だから、そのままビーフンを食べることもなく、10年以上がたった。

ヘルパーの講義

 家族に介護が必要になり、いろいろとあって、仕事もやめて介護に専念していた。その頃、少しでも役に立つかと思って、今はなくなってしまった資格である「ヘルパー3級」と「ヘルパー2級」(訪問介護員)を、地元の社会福祉協議会で取得しようと思い、講義や実習に通っていた。

 約40人くらいの教室。同期の方々には、女性が多く、男性は4人ほど。それでも、メンバーに恵まれて、そのうちに、お菓子を交換するようになり、その時間は、楽しかった。その資格を取得した後も、同期で集まるようなこともあった。それは、ありがたいことだった。

 そのメンバーの中に、台湾出身の女性がいた。台湾では、介護の仕事がないらしく、興味もあって、資格を取ろうとしていた。のちに1級ヘルパーにまでなるから、勉強熱心で、親切な人で、私と同世代だと知ったが、もっと若く見えた。

 その女性が、時々、料理を多めに作ってきてくれて、昼食の時間の時に、分けてくれる時があった。中華料理がほとんどだったと思う。

 おいしかった。

ビーフンの、とてもいい思い出

 ある時、その女性が、ビーフンを持ってきてくれた。

 普段は忘れている、昔の「悪い記憶」が蘇り、失礼ながら体が構えてしまう。

 見た目が、ちょっと記憶と違っていた。

 こんなにしっとりしていたのか。

 食べる。

 あれ、おいしい。

 ラーメンでもなく、ソーメンでもなく、焼きそばとも、冷麺とも違うのに、独特の弾力もあって、気がついたら、するすると食べていた。具も、いろいろなものが入っていて、それが溶け合っていて、おいしかった。

 それは、明らかに、そのビーフンを料理してくれた女性が、料理が上手いおかげなのは分かったけれど、ビーフンがこんなにおいしいことを、知らなかった。

 10年以上の「ビーフンの悪い記憶」は、明らかに塗り替えられて、ビーフンはおいしいものだと思えるようになった。それほど、おいしいビーフンだった。

 どこまで通じるのか分からないけれど、そうしたことも含めて、お礼を伝え、その話の熱で、やや引かせてしまったが、できたら、妻にも食べて欲しかったので、お願いして、小さい容器も借りて、家に持ち帰り、妻にも食べてもらった。

 おいしい。と言ってもらった、と思う。

「ビーフンのとてもいい思い出」は、今は立て替えられてしまった、古い鉄筋の公共の建物の気配とともに、今も覚えている。




(他にもいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。



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