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『その男、凶暴につき』……予算だけが大事なわけではない、と教えてくれた映画。

 1980年代、映画を見るときは、ほとんどハリウッド作品だった。
 それが、個人的にはハズレが少ない、という感覚だった。

予算

 それほど熱心な映画ファンでもなく、多くの映画を見ているわけでもないのだけど、それでも、映画監督や、関係者の対談のような番組などは見ていた。

 その頃は、出演者が誰であっても、それこそハリウッドと比べたら予算が足りなすぎて、日本映画はかなわない。だから、予算があれば負けないのに。

 視聴者としては、そんな話が繰り返されていたように見えた。

 専門家が口を揃えて語るから、それは本当なのだろうと思ったし、画面の違いは、予算の差なのだろう、と納得していた。

『その男、凶暴につき』

 今から振り返れば、バブル時代だったからだろうけれど、異業種監督、というのが一種の流行りになっていた。ミュージシャンも映画を撮っていたし、そういう話題の中で、ビートたけしが映画監督をした、という話も聞いた。

 すでに、笑いの世界ではカリスマだったけれど、どんなことでもできる人間がそんなにいるとは思えなかった。それに、最初は深作欣二監督だったのが途中で降板し、突然、監督になったというアクシデントのようなエピソードも流れていた。だから、それほどの期待もできなかった。

 だけど、急に映画を見に行きたいと、珍しく思った時、映画館では、他の映画は人がいっぱいで、すぐに入れたのが『その男、凶暴につき』だった。

 予想以上に、面白かった。

 私にとっては、新鮮な映画だった。

 ジャンルは、アクション映画、といっていいのだと思うけれど、主演のビートたけしが、やたらと歩いていた印象が強い。それに、アクションというより、暴力、という表現の方が似合っていたし、何かが爆発したりと派手なシーンは少ないけれど、人が人を殴ったりする肉体的な痛みが伝わってくるようで、気持ちがざわざわしたし、ザラザラした。

 とてもリアルだった。ずっと不穏な空気が流れていた。

 すごいと思った。

リアル

 そのあと、その映画に関して、ビートたけしが、映画監督・北野武として出演している姿をテレビか何かで見た。

 刑事を演じるビートたけしが、捜査を進めていく中で、若い男性に情報を聞き出す場面のことを話していた。

 座り込んでいる男を、刑事が何度も平手打ちをする。それは、手加減をしていないし、「いい加減、吐け」などという大声もなく、淡々と痛みを起こさせていくような作業に思え、それは、何度も続き、見ている方も、痛い感じがして、もうやめてほしい、と思う頃、その若い男性も話を始める。

 この場面について、北野監督は、確か、こんな言い方をしていた。

 本番を始める前に、言ってあった。この場面は、こちらが平手打ちを続ける。それで、もう痛くて我慢できなくなって、話をするまでは、そのままずっと撮影をする。その間は、その役者もずっと映っているから、本当に限界まで我慢をしてくれるはず。

 おそらくは、そんな方法論が、映画を貫いていたと思うし、北野武として映画を見てきて、こんなわけないじゃないか、と疑問に思っていた部分を修正している、という表現もしていた、と思う。

 予算だけが映画の質を高めてくれるわけではない。

 年に数本しか映画を見ない人間にも、そのことがはっきりとわかった。






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