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読書感想 『コロナ後の世界』 「社会を、これからも続けていくための入門書」

   世界的に著名な、それぞれの専門分野での成功者6人の語りでもある。
 経済学者、進化生物学者、理論物理学者、組織論専門家、心理学者、起業家。

 ノーベル賞受賞者も含まれていて、さらには、60代が多数派で、最年長は80代でもあるので、その知識や情報や知恵だけではなく、その経験も含めての語りになっていると思われる。

 年齢だけで考えると「老害」という言葉を浴びせる人もいそうだけれど、問題は、その人の姿勢であり、思考であり、過去のことも踏まえた上で、未来について切実に考えているかどうか、だと思えた。

 そうした思考を続けているように見える人たちが、コロナ禍について、そして、「コロナ後の世界」はどうなるのかについて、考え、話をしている。

「コロナ後の世界」    大野和基 編

 インタビューをしているのは、ジャーナリスト・大野和基氏で、それぞれの専門分野に関して、とても深く、というよりは、コロナ禍の現在、さらにはその「コロナ後」についての話題になっているので、一般的で読みやすくなっている。

 基本的には、コロナ禍になったから、というよりは、コロナ禍によって、世界がいったん止まったような状況になることによって、これまでの弱さやおかしさが、残酷なほど明らかになってしまった、といったことを、6人がずっと伝えようとしているように思える。

 そして、それぞれの専門分野の専門知識というよりは、専門的な思考によってコロナ禍、そして「コロナ後」のことまで考えていることを提示しているようにも見える。

 例えば、進化生物学者・ジャレド・ダイアモンド氏は「銃・病原菌・鉄」(リンクあり)のように、広く、長い視点を提示してくれている。

 感染症がこれほど世界的な脅威になるのは、初めてのことかもしれません。これまで国際社会がみな一致して脅威だと認めたクライシスは、実はあまり前例がないのです。

 それは、不安を高める要素にもなるのだけれど、それを知っていれば、混乱するのも当然という前提から始められるので、不安の質が変わる可能性がある。

 危機を乗り越えるためにあなたができる最も効果的なことはまともな政治のために投票に行くことなのです。 

 ものすごく基本的で平凡だけど、重要なことを話しているように思えた。

現在の危機

 コロナ禍だから、止まることも多いのだけど、その間も危機的なことほど進む可能性があることを語る理論物理学者・マックス・テグマーク(リンクあり)もいる。

 もしあなたが、腹の立つ相手を殺したいと思ったら、iphoneと同じくらいの価格の小さなドローンに相手の顔と位置情報を入力すればよい。それだけで誰にも知られることなく相手を殺害出来ます。
 このような自動兵器を作るだけのテクノロジーは既に我々の世界に存在しています。これから数年のうちに対策を打たないと、すべての大国が自動兵器を大量生産するクレイジーな軍拡競争に入る可能性すらあるでしょう。そうなればブラックマーケットで自動兵器が安価で手に入るようになるまで、さほど時間はかからないはずです。

 こうした危機的なことほど、知らないうちに進むことを考えると怖くもなり、コロナ禍であっても、当然ながら、考え続けるべきこともあるのに、気づかせてくれる。

 生物学者たちは一九六〇年代後半に「生物兵器」の危険性を広く訴え、生物兵器開発を国際的に禁止することに成功しました。そして七〇年代には「生物学」の研究において「越えてはならない一線」を引きました。
 AIも同じ道を歩むべきです。早めに戦略や倫理基準を定め、AIを利用する際に越えてはならない一線を明確にルール化するのです。

現在の問題

 さらには、コロナ禍となり、それが「コロナ後」になったとしても、その間に、それまでの課題まで解決するわけでもないことに改めて気がつかせてくれる人もいる。「ワークシフト」(リンクあり)を書いた組織論の専門家・リンダ・グラットンは、「コロナ後」を語っているが、それは、これまでのことであり、これからのことでもある。

 長く働くためには、好きな仕事を見つけなければなりません。嫌な仕事を続けることほど、惨めなものはないですから。これからは、自分で小さなビジネスを興したり、複数の仕事に同時並行で関わる人が増えていくことが考えられます。

 そのために解決すべき「日本の課題」についても、改めて指摘している。このことは、オリンピックの組織をめぐる問題で、現在クローズアップされていることと、ほぼ直接的に繋がってもいる。

 問題の根本にあるのは、日本における結婚についての伝統的な価値観でしょう。「夫は一家の大黒柱として働き、女性は家を守るものである」という「男女分担制度」のことです。伝統的な制度としての結婚が、いまだに変わっていないことが日本固有の問題なのです。日本の男性や企業は、いまだにその考えから脱却できていません。

コロナ後の経済

 そして、コロナ禍で、「経済を回す」という言い方を多く聞くようになって、とにかく経済の復活を、などという思考に行きがちなのだとしても、「コロナ後」は、そこだけに飛びつくべきではないのだろうと、思わせてくれる言葉もある。それは、「コロナ前」に戻るのが、必ずしも正しいわけではないことも、思い出させてくれる。

 我々が改めて心に留めるべきは、GAFAの唯一のミッションは金儲けだということです。編集権限やセーフガードを機能させ、ヘイト活動家が発信した、内容に問題があるコンテンツを排除することは、クリック数を減らし、多額の収益を失わせます。フェイスブックにはそうしたことを行うインセンティブが、全くないのです。

 経済学者であり起業家でもあり、「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」(リンクあり)の著者でもあるスコット・ギャロウェイが、そう語ると、説得力もある。さらには、個人的には、どうしてこのコロナ禍の時期に株価だけが上がるのかについても、初めて少し納得ができ、そのことへの警戒心は強よまった。

 株価は実体経済全体を表しているのではなく、富裕層トップ一〇%の経済的繁栄を反映しているからです。その一〇%の人々が株式の八〇%を保有しているからです。NASDAQを見て、それが実体経済の指標だと勘違いするのは危険です。それは富裕層のバロメーターでしかありません。

経済と感染症

 そして、どうしても「感染症予防か、経済を回すのか」と、どちらかしか選べない選択肢のように語られているのだけど、それが、誤りでもあることを、経済学でノーベル賞を受賞したポール・クルーグマンリンクあり)は、こう語っている。

 経済を回すことを優先させるよりも、まずは感染症対策の最前線にいる医療関係者と、経済的シャットダウンで打撃を受けている人たちをサポートするべきなのです。早すぎる経済活動の再開は、かえってダメージを大きくするだけです。

コロナ後」も生きるための情報

 こうして引用が多くなってしまったが、こうした「知恵」は、今もこれからも有効なオーソドックスなものだと思うし、この時期だからこそ、知っておいた方がいいと思える内容が多かったので、なるべく紹介したくなった。

 ここにあげた引用は全体の一部にすぎないので、もし納得感があるのであれば、「コロナ後」も生き抜くための入門書として、出版されてから半年以上が経とうとしているのだが、今も有効であるように思えるので、ここから、さらに情報や知識を深めるためのガイドブックにもなり得ると思う。

 コロナ禍の不安を少しでも減らしたい、と思う方にも、オススメできると思います。




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでくださると、うれしいです)。


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