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読書感想 『大人のいじめ』 坂倉昇平 「働き続けられる職場の方が、奇跡かもしれない」

 ラジオで、著者を知った。

 そこで語られた「大人のいじめ」は、想像以上に過酷な体験だと思えた。



(※ 現在、職場のハラスメントなどで、悩まれたりしている方は、ここからは、ハラスメントの具体的な例も引用されていますので、さらに辛さを増してしまう可能性もあります。ご注意してくだされば幸いです)。




『大人のいじめ』 坂倉昇平 

職場のいじめで精神障害を発症した件数が、この11年で10倍に!

 この本の帯には、こんな言葉が書かれていて、それは、知っているようで知らないことで、私にとっては、昔の「職場」というものを中途半端に知っているから、この「大人のいじめ」という現状の理解から遠くなるのかもしれないと、この本を読み進むうちに思えるようになった。

 例えば、こんな状況は、本当にひどいと思った。

 7月に配属された先で、教育指導の担当者からハラスメントを受けるようになったという。Bさんのメモには、7月上旬に「次、同じ質問して答えられんかったら殺すからな」「お前が飛び降りるのにちょうどいい窓あるで、死んどいた方がいいんちゃう?」「(飛び降りたら)ドロドロ●●(Bさんの名字)ができるな」「自殺しろ」という教育担当者の発言が記されていた。 

 ただ、こうした環境は、個人の資質の問題ではなく、歴史の中で作り上げられてきた構造的なことではないか。数多くの労働相談を受けてきた著者は分析していて、それがより怖いことだと思わせる。

 業務による精神障害の最たるものとして、「過労自死」「過労自殺」という言葉がよく使われてきたが、いまやその大半は「ハラスメント自死」「職場いじめ自死」という表現の方が当たっているのではないだろうか。

最近の職場いじめの三つの特徴 

 著者は、最近の「職場いじめ」3つの特徴をあげている。

1、 過酷な労働環境
2、 職場全体の加害者化
3、 会社による「いじめの放置」

 こうなってしまうと、従来から「パワハラ」と呼ばれているような上司から部下への「嫌がらせ」ということだけではなく、もっと逃げようのない、全社的ものになってしまっているように思える。

 ここに挙げた三つの特徴をまとめて、筆者は以下の仮説を提示したい。近年の職場いじめは、①厳しい労働環境で働かせ続けるために、②上司はもちろんのこと、一般労働者である同僚までもが「自発的」に行うほど浸透した、③労務管理のシステムとして機能しているのではないだろうか。 

 この「労務管理のシステム」については、こうした具体的な被害例があげられている。

 チームリーダーたちは、若手たちがこうした長時間の労働に「耐えられる」ように、暴力を振るっていたともいえる。睡眠不足でボロボロでも、暴力への恐怖で思考停止に陥らせ、命令された業務を忠実にこなさせるのだ。もちろん離職者は続出していたが、残ったAさんたちは、長時間労働にも理不尽な業務にも文句を言わない従順な社員に仕立て上げられていった。 

 安直な言い方は失礼だと思うが、これは本当に「地獄」でしかないように見える。ただ、DVの本質が「支配とコントロール」と言われているように、ハラスメントの被害を受けている当事者は、その自覚は少なく、今も自分を責めている可能性がある。

 だから、難しいかもしれないけれど、それが不当な「いじめ」だと気づくことから始めるしかないと考えると、それ自体も、とても困難だと感じ、気が遠くなる思いにもなる。

経営の論理に従属するいじめ

 この「経営の論理に従属するいじめ」は、実はとても根深く、社会の構造全体にも関わることで、さらには企業に勤めている以上は、この「いじめ」と完全に無縁とは言えないような点まで、著者は、かなり明確に分析をしているように感じる。少し長いけれど、引用する。

本来あるべき職務を全うしようとしたり、職員の増加や余裕を求めたり、さらには虐待に違和感を抱いただけの労働者すら、コストカット優先の職場にとっては「迷惑をかける」存在であり、「排除」や「矯正」の対象となってしまう。子どもや高齢者を大切にしたいという思いまでもが、いじめの引き金となってしまうのだ。 
この労働の「質」を放棄させるいじめの舞台は、医療・福祉分野にとどまらず、広い意味での「ケア」である教育や他の公共部門、IT、さらにはジャーナリズムやクリエイティブ系のような、単純化に限界があり、社会性の高い労働にも広がっている。
その職場いじめは残酷さを増している。経営に服従しない労働者を炙り出し、見つけたら人ではなく、人格を認めなくて良い「敵」として扱い、見せしめにする。ストレスの発散先を求めているどころか、「会社目線」に立って、会社に貢献しない労働者の存在を許すことができなくなり、攻撃性を高めている。

 ただ、文字通り「暗澹」とした思いになるのは、この攻撃性は自分達の利益につながらないのに、ひたすら「経営の論理に従属」し続けていることだ。これは、どうやら世界的に見ても異例のことのようだ。

むしろ、いじめを行うことが、自分も苦しんでいる働かされ方を擁護することになり、結果、自らの首を絞めている。日本では、労働者にとって、およそ「合理的」とは思えないかたちで職場いじめが起きている。それほどまでに、経営の論理と、それによる「規律」が、労働者に浸透しているのだ。 

 これだけ根が深い社会的な問題になると、解決へ向けて動き出すことさえできないのではないか、といった思いにもなる。

職場いじめに悩む人への実践的アドバイス 

まずやってほしいのは、①証拠を集めること、②いったん会社を休むこと、そして③社外の専門家に相談してみることだ。 

 この著書の最後には、「付録」として、実践的アドバイスが丁寧に書かれている。
 もしも、パワハラや、「職場のいじめ」などに悩んでいる方には、知っていただきたい情報が詳細に載っている。

 その中で、一つだけさらに引用するとすれば、連絡先になると思う。

NPO法人POSSE  (筆者が理事を務めている)
03−6699―9359

https://www.npoposse.jp

POSSE(ポッセ)は若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人です。
労働や生活に関する相談を無料で受け付けています。


おすすめしたい人

 企業に勤めている方でしたら、ぜひ、読んでいただきたい書籍です。

 現在、パワハラやいじめの真っ最中であれば、読むのは厳しいかと思いますが、「職場いじめ」に対して戦いを続けた人のエピソードもありますし、終盤には「職場いじめに悩む人へ実践的アドバイス」もありますので、その部分だけでも読む価値はあると思います。
 
 今の日本社会について、企業の「職場いじめ」の視点から、かなり明確に見えてくるとも考えられますので、現代という時代について考えたい人にも貴重な本ではないでしょうか。


(こちら↓は、電子書籍版です)




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)



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