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春になれば【短編小説】

さてさて、もうすぐ春がやってくる。
その前に僕はやる事が山積みなのだ。

毎年の恒例行事。
まずは皆様へ手紙を出す。

「もうすぐ立春となりますので、その前に一度お集まりください。」

すると会合当日、いつもの錚々たる面々が顔を出す。
太陽や風、桜や杉など、春には欠かせない名だたる大御所達だ。

「お集まり頂きありがとうございます。さて、さっそくではありますが、皆様。もうすぐ春になります。今年の春はどういった春にいたしますか。」

「……。」

僕の問いかけは未だ宙に浮いたままだ。
まぁ、四季サミットはいつもこうなのだ。

そう、これはその年の四季について取り決めをするための会合である。

すると、だいたい少し経ってから、初めにお日様から一言。
「まぁ、今年も変わらずですな」
これは毎度恒例の一言で、日足が伸びることを指している。

それから風さんが、「そうですね、私も毎度の事ですが、お日様のお力添えも頂きながら、少し暖かくなろうと思っております。」と、続けて話す。

これを皮切りに、他の参加者も
「私も…」「私も…」と、
ボソボソと一斉に話し始める。

「…。少し静粛にお願い致します。」
これは毎度、司会である僕の役目だ。

少し静かになったところで杉が話し出した。
「ちょっと、俺いい?」と聞きつつ、有無を言わさず続けて話す。
「今年はさぁ、花粉多めにしてみようと思うんだよねぇ。」

「何かあるんですか?」と、僕は尋ねる。

すると杉野郎は言った。
「やっぱさぁ、ド派手にいきてぇじゃん?せっかくなんだし、去年の量を超えてさ、今年くらいはビックニュースとして載りてぇじゃん?」
こいつはいつもこうである。

「その気持ちはお察ししますが、やはりたみの事を思うと、やりぎもいかがなものかと…(スギだけに…)」なんて、心の声も出そうになる。

「ボクちゃんいつもそうじゃん。なんかつまんなくない?まぁ、いいよ。例年通りね。」と少し怪訝そうに杉は言う。

つまらないとか言われましても。と、途中思ったけど口には出さなかった。
杉を置いて、辺りを見渡すと桜ちゃんがなんだか話したそうにしている。

「桜ちゃん、今年はどうしたいとかある?」と、優しく尋ねる。

「去年、いつもより少し早く咲いちゃったの…」と、少しシュンとしている。
桜ちゃんはいつも可愛い。満開の笑顔だと尚更胸が苦しくなる。なんだか少し恥ずかしがり屋な所も絶賛キュンポイントである。

「去年は春になる前が少し温かかったから仕方ないよ。」と、僕はすかさずフォローする。

すると、お日様の眉頭がぴくんと少し動いた。
僕はその瞬間をしっかりと横目で捉えていた。

僕は、しまった。と、少し焦りつつも冷静を装い、
「寒いのが苦手な民は嬉しそうにしてたから、暖かくて早く咲いたのも、ある意味良かったんじゃないかな?」
なんて誤魔化してみる。

お日様は分かりやすく上機嫌になる。
僕はホッと胸を撫で下ろした。

桜ちゃんは少し納得がいかないようで、なんだか困ったような顔でうるうるしている。

僕は少し戸惑いつつ尋ねる。
「今年はいつもの時期に咲けるように頑張ってみる?」

それを聞いて、桜ちゃんは少し嬉しそうに、「うん、みんなの卒業式や入学式に、できるだけいっぱい咲いていたいから。」と言った。

なんて健気なんだ。そして可愛い…
いつの間にか僕の顔が緩みそうになる。
自分を律するように、心の中で大きく顔を振り邪念を一掃した。

なんだかんだ、春に向けた話し合いは進み、今年の春が決まった。

そんな中、上座で目を瞑り、起きているのか寝ているのか、いつも定かではないが、たぶんきっと寝てるであろうお釈迦様に声をかける。

「お釈迦様、最後に一言頂いてよろしいですか。……。お釈迦様?」と語尾を強めに言う。

「ん…あぁ、ワシか、一言ね…」
そういうとお釈迦様は、ゆっくりと目を開けて、手の平を少し上げつつ、こういった。

「花まつり忘れないでね。」
そう、これも、いつもの事だ。

花まつり…つまり、お釈迦様ご自身の誕生日である。
お釈迦様は意外と寂しがり屋なのだ。
そして、民に慕われたいし、祝われたいのだ。

「甘茶が毎年の楽しみでな、よろしく頼んだよ。」そう言いながら弱々しく上げた手が徐々に力なく胸元へ帰っていく。

「では、そういう事で…他はよろしかったですか?」
そう言って僕はお釈迦様に最後の確認をする。

そして、お釈迦様からの「ん、そうじゃな。」を合図に会合の締めの言葉を告げる。

「それでは皆様、春に向けて何卒よろしくお願い致します。では、これにて四季サミットを閉会いたします。この度は、お集まり頂きありがとうございました。」

この言葉を機に、まずお釈迦様が
「ん、」と言ってスっと消えていく。

それから、面々が
「ありがとうございました。」やら、
「お疲れ様でした。」などと言いながら
それぞれの場所へ帰っていった。

僕はそれを見届けて、議事録を閉じ、片付けを終え、ようやく部屋を後にする。

今日も今日とて慌ただしい1日だった。
何とか無事、春に間に合って良かった。と、毎回ながら安堵する。

そうやって、春になれば、僕らが春を感じることができるのだ。




今回は虎吉さんのお題【#春になれば】にて一作書いてみました。
ショートショートなのか…?と思いつつ。
これが小説で言うどの位置付けにあるのか定かではありませんが、そういうことにしておきます(笑)

《訂正》2024.2月 字数的に短編小説の位置付けになったためタイトルを【ショートショート】から【短編小説】に変更しております。

素敵なお題をありがとうございました!
楽しく書くことができました☺️
#虎吉の毎月note


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メインの小説は堪能されましたか。

この後にデザートでもいかがですか。

ということで、私がこれを書くに至った経緯や意図、その時の思いや感情などを知りたいと思った方はぜひ以下リンク先の『【デザート】発想の転換、世界観の見つけ方。』を読んでみてください。

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