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【短編小説】スティール。

【短編小説】スティール。

生まれた瞬間から名前が自動的に決まり、意味を表す世界。

スティールちゃんは、「ス」が頭、「テ」が上胴体、「ィ」が下胴体、「ー」が両腕、ル」が両足の女の子で、祖母の遺伝から、頬に「 ゛」が付いているのが特徴でした。

スティールとしてただ生まれたその子の意味は「盗む」です。
そのため、周囲からは忌み嫌われた女の子でした。

確かに、その文字の意味合いを強く能力として持ち、彼女はモノや人を盗むのが得

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【短編小説】6と9の苦悩。

【短編小説】6と9の苦悩。

この世の見た目は、数字で構成されています。
ある人は2という形で。ある人は、7という形で。

その中でも、ある6は、勉強、運動、人付き合い全般が苦手で、いつも劣等感を抱いている少年でした。どんなに練習しても、努力しても、みんなに追いつけないので、いつもいつも、自分を責めては他人を羨んでいました。

一方で、その幼馴染の9は勉強も運動もでき、周囲からも好かれ、いつも生き生きとしている、世にいう優等生

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【短編小説】愛のクスリ。

【短編小説】愛のクスリ。

とある山奥に、ある少年がいました。

その少年には他に、3人の家族がいました。

しかしながら、青年が物心つく前に両親は病死し、物心ついた頃には、兄は病に伏せ、布団の上で残りの寿命を全うするしかない状態でした。 

更に兄は心も病に蝕まれ、誰かが少しでも兄に近づこうとすると、狂気めいたことを大声で口にし、門前払いする者と化しており、少年は、兄を見守ることしかできませんでした。 

その時の少年の心

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【短編小説】幸せのお店。

【短編小説】幸せのお店。

ここには、沢山の人が並ぶお店が数多くあります。

その中でも私は、幸せのお店で順番を待つことにしました。

こんな簡単に幸せになれるなんて、そんな奇跡あるのだろうか…。

そわそわそわそわ…。
きっと、世間の言い方としてはそう表現するのでしょう。

次は私の番かな、それとも、次の次かな。

暫く待ったけど一向に呼ばれる気配はありません。 

受付の番号の順番を見に行きましたが、私の番はまだです。

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【超短編小説】陰でも僕は、回り続ける。

【超短編小説】陰でも僕は、回り続ける。

僕は、ずっと回ってる。

みんなを、快適にするために。

くるくるくるくる、何度も同じ場所を回ってる。

ても、小柄な僕の役割に、存在に、気づいてくれる人は少ない。
でも、それでも良いんだ。

だって、僕は影の存在だから。

僕は、空気を循環させる働きがメインだから。
僕は、サポーターだから。
クーラーや扇風機には、どうやっても敵わない。

でも、就寝時とか、部屋が広くない家庭とか、僕を主役にして

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【短編小説】桜物語。

【短編小説】桜物語。

4月も中旬にさしかかるある日、公園で遊んでいたら、桜に声を掛けられた。

「もうそろそろ春が終わってしまうから、今年の僕が死ぬ前に、願いを叶えてくれないか?」

どうやら、桜は毎年、別人に生まれ変わるらしい。

来年生きられないならしょうがない、そう思って、協力することにした。

1つ目の願いは、「お店の中に入ってみたい」だった。

木である桜が、どうやったら動けるのか聞くと、花びらを1枚持ってい

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