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【短編小説】愛のクスリ。

とある山奥に、ある少年がいました。

その少年には他に、3人の家族がいました。

しかしながら、青年が物心つく前に両親は病死し、物心ついた頃には、兄は病に伏せ、布団の上で残りの寿命を全うするしかない状態でした。 


更に兄は心も病に蝕まれ、誰かが少しでも兄に近づこうとすると、狂気めいたことを大声で口にし、門前払いする者と化しており、少年は、兄を見守ることしかできませんでした。 



その時の少年の心は、異常なまでにチクチクと痛み、段々とそれはズキズキへと、嗚咽へと、吐き気へと、変わっていったのでした。


残り幾何かの寿命しかない、と小耳に挟んだのがいつのことだったのか、少年の記憶の中にはありません。 


少年の心は、自分でも理解できない状態になっていました。




「このまま兄を見続けるより、いっそ…」




ある日の夜更け、少年は、兄の部屋へと向かいました。



寝ている兄は無防備で、弱った身体は将に死体そのもののように、少年の目には移りました。



不意に手を振り上げ、兄の首を掴み、渾身の力を込めました。



兄は突然苦しみだし、手足をバタバタとさせ、少年の頬を、目を、額をひっかき、そして、動かなくなりました。




少年は、「それ」から手を放し、布団に寝かせました。



あぁ、やっとこれであの苦しみから解放される…!



そう思っていたその時、



「貴方には、愛というものがないのですか!?」


と後ろから声がした。




振り向くと、そこには、世に言う兄の幼馴染という者がいた。



「何故…何故、兄を殺したのですか!?」 




そう問いただされても、少年には理解しがたい言葉の羅列にしか感じませんでした。






「アイ?コロス?ナニ、ソレ?」





正直に答えると、その幼馴染の女は少年の頬をひっぱたきました。



「何で、目から水が出ているの…?」




少年には、分からないことが多過ぎて、多すぎるからこそなのか、何故か笑うことしかできませんでした。




少年には、愛された記憶が無かったからです。






「アイって、何だろう…」





何もかもを失った少年は、「アイ」を探すことにしました。




「アイは、どこにあるんだろう・・・」


何日も何日も歩き続け、何年経ったころだったか…



ある医院に、「アイのクスリ」があるという話を耳に挟んだ。


「アイの、クスリ!!!!」



少年は、血眼になってその医院を探しました。

しかしながら、やっと見つけた頃には、「アイのクスリ」の残量は残り僅かになっていました。


どうやら、「アイのクスリ」はある実験の段階で偶然できた代物で、二度と作ることができないモノらしいのです。


そこで少年は、医院長の前で膝をついて懇願しました。



「どうか、僕にアイを教えて下さい…!どうか…!どうか…!」


医院長は、逡巡した後、「承知致した」と、少年に薬を瓶ごと渡しました。



少年がその瓶の蓋をあけると、そこには沢山の色のクスリの錠剤が収まっていました。


「その中で、自分が必要だと思ったものを、1粒飲みなさい」




そう言われた医院長の顔を見た後、再び瓶の中に視線を下ろしました。
「ヒツヨウナ、モノ…ヒトツ…」



少年には、どの錠剤が必要なのか、まるで分かりませんでした。



「ピンク?赤?緑?青?黄色?オレンジ?…分からない。分からない。分からない!!!」



業を煮やした少年は、意を決して残り僅かな薬を全部口に入れました。


(描く様子はYouTubeにあげてます)



すると、目の前が霧掛かり、医院長の姿も、病室も、何もかも霧に飲まれてしまいました。



「ここ、どこ…?」



少年が辺りを見回していると、大きな足音と共に、2つの影が少年のもとへ近づいてきました。




それは、家で毎日見ていた遺影と全く同じ顔で、少年の前で歩みを止めました。 




顔を見るだけで、少年は何故か目から何かが流れてきました。


「何、これ…」




「それはね、『涙』というの。悲しい時や辛い時、嬉しい時に流れるものなのよ。」



と、女性が言いました。

「なみだ…あれ、なんか、胸がポカポカする…」



と、少年は自分の胸に手を当ててつぶやきました。


「それは、愛情だね。きっと、我らに会えて、嬉しいのであろう」 


と、男性は言いました。



「これが、あいじょう…」



そうつぶやいた時、再び足音が聞こえてきました。



「だれー…」 



振り向いた瞬間、少年は首を掴まれ、宙に浮きました。

息ができない。苦しい。痛い。辛い。怖い。 



そんな単語が、今まで知らなかった単語が、沢山頭をよぎりました。

「にい、さ、ま…」



少年の首を掴んでいたのは、少年が手を掛けた、兄でした。

「この感情の名前は知ってる?…憎しみだよ!!!!」



そうか、これが憎しみか…そう思いながら、少年の意識は段々と薄れ、やがて消えていきました。






やがて霧が晴れ、そこに残ったのは、割れた瓶と、辛辣な表情をした医院長だけでした。






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