#90 ドレスコーディネーター Luisa（ルイーザ）
「ねぇ、そのマダム…なんとかさんのお店では
どんな準備するの？」
「全部だよ。ドレスも靴もバッグも
メイクもヘアセットも全部。
女の子のドレスコーディネイトで
彼女に勝る人は、僕の知る限りはいないよ。」
「そんなにすごい人なんだ…。
でも、ドレスとかって結構高いよね？
私、そんな持って来てないんだけど。」
「そのことなら心配しないで。
僕が無理に誘ったんだ。僕に任せて。」
Gerardがサッとドアを開けてくれた店は
シックなアイアンブラックを基調とした
レンガ造りの外観で
ショーウィンドウではキラキラと輝く
ドレスや装飾品がコーディネイトされていた。
「緊張しなくていいよ。
マダム Luisaは、君の魅力を活かした
コーディネイトをしてくれる。」
店の中には
ふんわりとしたチュールのロングドレスや
きらびやかなマーメイドドレス、
貴族のような衣装や総レースのワンピースを着た
マネキンがいくつか、実際に動いてポーズを決めていた。
壁の棚には
シンプルなクラッチバッグから
白鳥のような形のポーチ、完全な球体のバッグ、
反対の壁にはヒールが15㎝以上ある靴、
10㎝くらいの厚底のパンプス、ガラスのヒールなど
美しくディスプレイされていた。
奥の棚には
様々な帽子が壁一面に飾られ
ガラスのラックには宝飾品がいくつか並んでいた。
「やぁ、マダム Luisa。
今日は舞踏会だ、あの子をよろしく。」
Gerardが話しかけている先にいたのは
ポーズを決めていた、
きらびやかな紫のマーメイドドレスを着たマネキンだった。
ポーズをやめたLuisaは、
赤茶色の髪と綺麗なアーモンド型の目、
40歳は超えているようではあるが
年相応の色気を感じる妖艶な女性だった。
Luisaは立っていた台を降りて私を見ながら
ゆっくりとした口調で言った。
「Donato（ドナート）のとこの仮面舞踏会かしら？
少しカジュアルな感じよね、あら、あなた素敵な黒髪だわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「Gerard、この前の買った仮面と扇はこの子の為ね。
あなたの見立て通り、あのふたつ、よく似合う子だわ。」
「マダム Luisaにいつも色々教わっているからだよ。」
Luisaは、Gerardをしっかりと見て笑いかけた後、
再び私の方を向いて上から下まで観察した。
私はその場に固まるように突っ立っていた。
「そうね…やっぱり黒ね。シンプルなものがいいわね。
コッチへいらっしゃい。」
Luisaに誘われた先のカーテンを開けると
8畳はあろうかというほどの小部屋にだった。
2人掛けのソファとサイドテーブルが端にあり
奥の大きな金の額縁には
天使が取り囲むようにあしらわれていた。
「さ、はじめましょう。」
そう言って入ってきたLuisaの後ろからは
数点の黒のドレスとバッグ、靴を乗せた
ハンガーラックがついてきた。
「そのまま、鏡の前でじっとしていてくださる？」
Luisaは私の後ろに回り、一番手前のドレスを
人差し指で呼ぶジェスチャーをした。
ハンガーからひとりでに外れたドレスが
私と鏡の間にふわりと飛んで寄ってきた。
黒のシルク生地のシンプルなドレスだな、と
鏡越しに見ていると、いつの間にか鏡の中の私は
そのドレスを着て横や後ろを向いて見せた。
Luisaは少し目を細めて
「少し厳かすぎるわね…
堅苦しいディナーみたい。違うわ。」と他のドレスを見た。
また別のドレスが私の下へ飛んできた。
今度はスカートがふんわり広がった
ゴシックな雰囲気のドレスだった。
Gerardからもらった仮面と扇にはとても合っていたが
正直、私には合わないと感じた。
「そう、あなたのキャラじゃないわよね…
そう、違う。」
次に目の前に来たドレスは
レースのあしらわれたシンプルなフォルムのドレスだった。
所々にパールが付いていて
品のあるワンピースだった。
「うん、これね、これだわ。
そうなると靴はこれ、バッグはこれね！
あと、目元を少し派手にして、
その素敵な黒髪はそのままがいいわ…！」
あっという間にLuisaにコーディネイトされた私は
言われるがままに着替えてメイクされた。
端のソファに足を組んで座って
私を見るLuisaはとても満足そうだった。
フィッティングルームを出た私を見たGerardも
満足そうにニコッと笑いかけてきた。
「…えっと…どうかな？」
「とても素敵だよ。さすが、マダム Luisa。
君の魅力をちゃんと引き立ててる。
さぁ、行こうか。」
これがドレスコーディネーター
Luisa（ルイーザ）に初めて会った時のおはなし。
続きはまた次回に。
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